今日受けた仕事は原則、明日以降に取り組むだけで仕事が回りはじめる理由(滝川 徹)

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クライアントや同僚からチャット・電話でひっきりなしに連絡がきて、自分のペースで全く仕事をすることができない。そう悩むビジネスパーソンも多いだろう。

特に仕事の依頼をされるとつい反射的に「早くやらないといけない」と思いがちだ。しかし実は、「相手が必ずしも急いでいるとは限らない」。そう語るのは時短コンサルタントの滝川徹氏。

今回は、滝川氏の著書『細分化して片付ける30分仕事術(パンローリング) 』より仕事を予定通り終わらせるヒントを、再構成してお届けします。

割りこみタスクと時間の捻出

「割りこみタスク」とは簡単に言えば、自分が今やっていることを中断して対応せざるを得ない(割りこまれる)事象を指す。たとえば同僚から相談事をされる。クライアントからの電話に対応する。上司から急な仕事を頼まれる。これらは全て割りこみタスクだ。

あらためて、なぜ割りこみタスクを減らす必要性があるのか。再度確認しよう。結論から言ってしまえば、割りこみタスクに時間を費やせば費やすほど、本来予定していた仕事に取り組めなくなるからだ。

たとえば上司から30分かかる仕事を依頼され、その場で対応したとしよう。ここで考えるべきは、この30分はどこからきたのかということだ。言うまでもなく、通常の就業時間からだ。そう、割りこみタスクに費やした30分は限られた持ち時間の中から捻出していることになる。

朝の時点で今日やるべきタスクリストを作り、18時に仕事を終える算段を整えたとする。どれも今日やるべき仕事だ。いざタスクに取り組もうとしたときに割りこみタスクが発生した。急な作業に30分を費やすことになった。そうすると本来のタスクが予定どおり進んだとしても単純計算で予定終業時刻は18時30分になる。

ここで2つの選択肢が生じる。

(1)予定通り仕事を終えるために、18時30分まで残業する。
(2)予定通り18時に帰るために、30分相当のタスクを繰り越す。

わかるだろうか。つまり割りこみタスクに時間を費やすということは、残業かタスク未完了という、どちらを選んでも自分を犠牲にすることなのだ。大げさに思うかもしれない。しかしこの事態が常態化することは好ましい事態ではない。このことは君にもわかるはずだ。

我々が割りこみタスクを極小化しなければならない理由はここにある。他者からの割りこみタスクに対応すればするほど、それは自分に無理をさせることにつながるのだ。さらに言えば、我々が目指す目標とは真逆の事態とも言える。目指すのは働く時間を減らし予定通り仕事を終えて、気持ちも仕事もラクにすることなのだから。

では具体的にどうやって割りこみタスクを減らしたらいいのか。まずは割りこみタスクに対する考え方を変えることからはじめよう。

相手が急いでいるとは限らない

割りこみタスクが発生したとき、君はどのように対応しているだろうか。「B社の資料をまとめておいてくれ」と上司から急に頼まれた場合などだ。ここで冷静になって考えなければいけないこと。それは「はたして相手はそんなに急いでいるのだろうか?」ということだ。

Google、NIKE、P&Gでトレーニングし、世界最大のスピーチイベントで最高ランクの評価を得たジュリエット・ファント氏。彼女は著書『WHITE SPACE ホワイトスペース』(東洋経済新報社)で「案外、顧客自身もそんなに急いでなかったりするものだ」とし、入院患者がナースコールを押す回数について病棟看護師と行なった調査結果にもとづいて、このことをわかりやすく説明している。

ナースコールに応じる時間が決まっていないとき、患者は緊急かどうかにかかわらず用事を思いついたらその都度ボタンを押した。しかし看護師が「毎時間始めに立ち寄りますね」と声がけしたところ、患者が即座にボタンを押す回数は減ったという。

看護師が次いつ立ち寄るか。その時間・タイミングを明確に示したことで結果的に患者は緊急のときを除き、次の巡回まで待つようになったのだ。

このケースから学べることはいくつかある。そのうちのひとつは「相手が必ずしも急いでいるとは限らない」ということだ。少なくとも昔の私は上司から「資料をまとめておいてくれ」と声をかけられた際、「早くやらないといけない」とすぐに仕事にとりかかっていた。

しかし先の入院患者と同じように、もしかしたら上司は思いついた時点で依頼をしているだけで「1週間後に提出してくれればいい」と思っているかもしれない。もしそのことが明確だったら、翌日以降にこの仕事に取り組んだはずだ。

しかし昔の私は「相手が必ずしも急いでいるとは限らない」という発想がそもそもなかった。上司やクライアントからの仕事は、なる早で対応・報告しなければいけないと勝手に思いこんでいた。結果的に相手の想定より早く仕上げて驚かれることも増え、次も期待されるようになる。こうして必要以上に自らの負担を増やしていった。

では昔の私はどうすればよかったのか。答えはしごく簡単だ。上司やクライアントから仕事を依頼されたら「いつまでにやったらいいですか?」と期限を聞けばよかったのだ。あるいは自分から「1週間後でいいですか?」と確認すればよかった。

ナースコールの例でわかる通り、対応するタイミング=締め切りを顧客に知らせれば相手の緊急度合いが明確になる。「1週間後でいいですか?」という質問に「いや、会議にかける前に確認したいから明後日までに頼む」と言われたら、相手の意図や目的もくみ取れるだろう。逆に相手が急ぎではなければ「問題ない」との返答でスケジュールの共通認識もとれる。場合によってはさらに猶予をもらうこともできるだろう。

割りこみタスクが発生したときは「相手は必ずしも急いでいるわけではない」ということを念頭に置こう。そして、相手に「いつまでですか?」と確認する習慣を持とう。これが割りこみタスクに対する基本的な姿勢・スタンスだ。この考え方を自分に浸透させるための効果的な方法がひとつある。紹介しよう。

マニャーナの法則

タスクマネジメントの考え方のひとつに「マニャーナの法則」というものがある。マニャーナとはスペイン語で「明日」という意味だ。この法則は『仕事に追われない仕事術 マニャーナの法則(ディスカヴァー・トゥエンティワン)』にくわしく書かれている。

基本的な考え方は「今日受けた仕事は原則、明日以降に取り組もう」だ。上司やクライアントからあらたな仕事を依頼されたとき、その仕事は翌日以降に取り組む。これを原則とする。

急な依頼にすぐに取り組んでしまうのは昔の私だけではないだろう。先に話したように、受けた仕事にすぐ取り組むデメリットは思いのほか大きい。割りこみタスクに費やす時間を自ら増やすことにつながるからだ。

ここでも上司から30分かかる仕事を依頼された例で考えよう。マニャーナの法則にしたがい、実際の作業は明日以降に取り組むとすればどうだろう。割りこみ(タスク)に費やした時間は上司とのやりとりのみ(たとえば1分としよう)となる。明日以降に対応すると決めたそのタスクは、作業日当日予定されたタスクになるので割りこみタスクのように悪影響は及ぼさない。結果、残業なども生じない。

一方、頼まれた時点でその仕事に着手してしまうとどうなるか。割りこみタスクに費やす時間はやりとり含めて31分となる。この場合、自ら本当の持ち時間を削ってほかのタスクに影響を与えてしまっている。もちろん、「今日中にやってほしい」と言われたのなら仕方がない。しかし急ぎかどうかもわからない状況で、自ら負荷を増やす必要はない。

マニャーナの法則も「相手が必ずしも急いでいるとは限らない」という考え方を基本としている。今日受けたからといって、相手から「今日中にやってほしい」と言われない限り必ずしも即座に対応する必要はない。それならば明日以降に取り組もう。そう提唱している。

マニャーナの法則が効果的なことは理解できても実際に仕事を頼まれた状況ではついその仕事に手を伸ばしてしまう。そんな人もいるだろう。大切なのはそうならない「仕組み」を作ることだ。仕組みといってもそんなに難しい話ではない。参考までに私がマニャーナの法則に出合った頃に実践したやり方を紹介しよう。

当時私は会社のデスクにトレイを用意し、今日あらたに発生したタスクはそこに入れるようにしていた。上司や部下から仕事の依頼を受けたら急ぎでないことを確認したうえで、トレイにそれに関連する書類を入れるのだ。

クライアントからメールで用件が来たら、それを印刷してトレイに入れる。電話での依頼ならその内容を忘れないようにメモにしてトレイに入れる。そうして終業前にトレイに入っている翌日以降取り組むタスクを作業日付毎に整理して退社していた。

割りこみタスクにかかる時間は依頼されたときのやりとりと帰宅前の作業日の振り分けのみ。依頼された日にトレイの中は綺麗になるので、メモなどでも失くす心配もない。

たったこれだけだが、マニャーナの法則を確実に実践することができた。この法則の良いところは実践が簡単ですぐに効果が出ることだ。実際、このやり方ですぐに自分のペースで仕事を進められるようになった。

メールの印刷や先のクリアファイルの活用など、アナログだと思っただろうか。だが自分の中で仕組み化できるまではアナログくらいがちょうどよいと思っている。だからと言って、これが性に合わない読者もいるだろう。そのときはここでの原理原則をおさえたうえで自分に合ったやり方を探してほしい。

滝川 徹(タスク管理の専門家)
1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。 

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年4月23日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。