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【挨拶】第99回信託大会における挨拶

日本銀行総裁 植田 和男
2024年4月10日

はじめに

本日は、第99回信託大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。日頃より、信託を通じて、わが国の社会課題の解決と経済の発展に貢献されておられます信託業界の皆様に、日本銀行を代表し、深く敬意を表します。

私からは、経済・物価情勢と金融政策運営と、信託の果たす役割への期待について、お話ししたいと思います。

経済・物価情勢と金融政策運営

まず、経済・物価情勢と金融政策運営です。

わが国の景気は、一部に弱めの動きもみられますが、緩やかに回復しています。賃金・物価面では、春季労使交渉に関する最近のデータなどから、賃金と物価の好循環の強まりが確認されてきており、日本銀行は、3月の金融政策決定会合において、先行き、「展望レポート」の見通し期間終盤にかけて、2%の「物価安定の目標」が持続的・安定的に実現していくことが見通せる状況に至ったと判断しました。このため、これまでの大規模な金融緩和は、その役割を果たしたと考え、2%の「物価安定の目標」のもとで、短期金利の操作を主たる政策手段とする、通常の金融政策の枠組みに移行することを決定しました。

具体的には、政策金利を無担保コールレート(オーバーナイト物)としたうえで、これを0~0.1%程度で推移するよう促します。長期国債の買入れについては、これまでと概ね同程度の金額で継続し、長期金利が急激に上昇する場合には、買入れ額の増額などで機動的に対応します。また、ETFおよびJ-REITは、新規の買入れを終了しました。

信託の果たす役割への期待

次に、今後のわが国経済・社会の発展に向けて、信託の果たす役割に期待することを、3点申し上げます。

1点目は、人生100年時代における家計の安定的な資産形成の支援です。信託業界には、投資信託などの金融商品の充実やその適切な運用・管理だけでなく、顧客のニーズに寄り添った情報提供や金融リテラシーの向上についても、大きな役割が期待されます。この点、今月、「金融経済教育推進機構」が設立されましたが、信託業界からもお力添えをお願いしたいと考えています。

2点目は、社会の少子化・高齢化に対応したサービスの提供です。近年、教育資金贈与信託や結婚・子育て支援信託などの利用が増えています。これらは、信託を通じて、祖父母・親が子・孫など次世代へと資金を繋ぐ役割を果たしています。また、中小企業等の経営者の高齢化が大きな課題となっており、地域経済活性化の観点からも、事業承継信託の活用などを含めた金融機関等による支援が重要です。

3点目は、企業を取り巻く環境が大きく変化するもとでの信託業務を通じた企業支援です。上場企業に対する証券代行業務では、デジタル化や多様化する情報開示対応へのサポートなどが課題となっています。また、金融環境の変化を踏まえて、不動産の流動化などアセットファイナンスを通じた資金調達の多様化ニーズに適切に応えていくことも求められます。

おわりに

最後になりましたが、信託業界の皆様の今後のご健勝とご発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。