2022.09.26

私は国葬に反対する│安倍外交の「レガシー」再考──「誰に」「何を」残したか?【国際政治学・三牧聖子】

「国葬を考える」(1)
9月27日、安倍晋三元首相の国葬が行われる。メディア各社が9月に実施した世論調査では、すべての媒体で反対が半数を超えている。そうした状況を受け、9月19日に東京大学國分研究室の主催で、東大駒場キャンパスで「国葬を考える」と題したシンポジウムが開催された。国葬の持つ意味とは何か、安倍元首相が国葬に値する人物なのか。シンポジウムでの個々の発言を、連続で再録する。

第1回は同志社大学グローバルスタディーズ研究科准教授の三牧聖子氏(国際政治学)だ。

安倍・トランプの「蜜月」の内実

私は外交からの問題提起をさせていただきます。岸田首相は今回、安倍元首相をなぜ国葬なのかと問われ、説明する際、1つの理由として、安倍外交の「レガシー(遺産)」、そしてその「レガシー」を継承する弔問外交という意義を繰り返してきました。

この「レガシー」という言葉は、注意を要する言葉だと思います。私たちは今後いっそう、安倍外交が私たちの政治社会に残したものとは何かを、具体的かつ批判的に検証していかなくてはならない。こうした課題があるのに、「レガシー」という曖昧な言葉で安倍政権の政治外交が抽象的に語られ、ポジティブな側面のみが記憶されていく。これは非常に危険で、不当なことだと思います。

そこで私の報告では安倍外交の「レガシー」として語られてきたものを解剖していきたいと思います。その際、安倍外交は「誰に」「何を」残したのかを、特に私たち国民の目線に立って考えていきたいと思います。

シンポジウム「国葬を考える」(三牧氏はZOOMにて報告)

安倍外交の「レガシー」という時に、多くの人がまず想起するのが、安倍・トランプ両首脳間の「蜜月」とも呼ばれた緊密な関係だろうと思います。岸田首相もこの点は強調してきましたし、安倍・トランプの親密な関係は、米国の専門家からも高く評価されてきました。安倍元首相の死後のインタビューで、シーラ・スミス氏(外交問題評議会)やマイケル・グリーン氏(元国家安全保障会議アジア上級部長)などは、トランプ氏と特別な関係を築き上げた政治家として、安倍元首相を高く評価していました。

外交の評価ですので、海外の識者の見解も重要です。しかし、外交が国益を追求するものである以上、海外識者の評価のみならず、あるいはそれ以上に、「安倍外交は国民に何をもたらしたか」という国民目線の評価が大事ではないでしょうか。安倍外交が海外でいかに高く評価されたかが強調される一方で、国民目線での評価や検証は、おろそかにされてきたのではないでしょうか。

海外の専門家にあって、私たち日本国民に欠けがちな視点はあるでしょう。しかし、逆に、私たち国民だからこそ持っている視点もあります。

安倍政権は、戦後日本の安全保障政策に大きな転換をもたらしたわけですが、その強引なやり方は、日本国内の法秩序にどのような打撃を与えたのか。これは私たち国民にとって大きな関心事です。また、安倍政権のもとで米国からの兵器購入が激増し、軍事費も増えたわけですが、新型コロナ危機など、安全保障の脅威も多様化する中で、有限の予算をこのように使ったことは、果たして本当に賢明だったのか。抽象的な国家ではなく、具体的な国民の安全という視点に立ったとき、本当にそれを強化する政策だったのか。こうした納税者の視点も、安倍外交の検証においてはとても重要です。

これらの視点は、日本という国で生を営む私たち国民だからこそ強く意識されるもので、海外の専門家には欠けがちなのではないかと思います。