2022.09.26

私は国葬に反対する│「日本史上の汚点」安倍政権の内政を検証する【政治学・白井聡】

「国葬を考える」(2)
9月27日、安倍晋三元首相の国葬が行われる。メディア各社が9月に実施した世論調査では、すべての媒体で反対が半数を超えている。そうした状況を受け、9月19日に東京大学國分研究室の主催で、東大駒場キャンパスで「国葬を考える」というシンポジウムが開催された。国葬の持つ意味とは何か、安倍元首相が国葬に値する人物なのか。シンポジウムでの個々の発言を再録する。

第2回は京都精華大学国際文化学部教授の白井聡氏(政治学)だ。

アベノミクスとは何だったのか

安倍政権が非常に長い長期安定政権になることができた最大の要因は何であったかというと、出だしが上手かったんですよね。

第一次政権の時は「戦後レジームからの脱却」という、わりにイデオロギー色の強いスローガンを掲げて、そのことが裏目に出たと言うべきか、政権運営に行き詰まり、参院選の敗北をきっかけに短命に終わる。そこから学んだということですね。

だから第二次政権発足からだいたい1年くらい、ほぼほぼ経済の話だけをしていた。アベノミクスという自分の名前を冠した経済政策をドーンとぶち上げて、それのみを連呼する。それによって国民的な期待を高めることに成功したわけです。そこでもって長期政権に至るいわば土台が形成されていった。そういう意味でもアベノミクスは本当に重要なものだったわけで、その内実はどうだったんだということが検証されなくてはいけない。

シンポジウム「国葬を考える」

アベノミクスと言えば、3本の矢。あの頃、本当にニュースでも雑誌でも話題独占になったけれど、今では皆さん覚えていらっしゃいますかという感じになっていますよね。でも絶対にこれは忘れちゃいけない。これでもって安倍政権は権力を確立したわけですから。3本の矢なるものは、第一に異次元金融緩和である。第二に機動的な財政出動である。第三に成長戦略である。こういうことを言っていた。このうち本当に力を入れたのは異次元金融緩和のみだったと言えると思います。

というのは、財政出動はそんなに規模を増やしたわけじゃありません。成長戦略については内実スカスカであったということで、実際に大きな力を入れて動かしたという意味では異次元金融緩和だけだったと思います。

通貨供給量を増やしていく、マネタリーベースを増やしていくということで、2012年に政権をとってからものすごい勢いで増えている。つまり安倍政権以前はだいたい100兆円強くらいだったのが、2020年までのデータですけれども、600兆円を超えているということで、だいたい4倍とかそのくらいになっているということです。これでもっていわゆるリフレーション政策によるデフレからの脱却ということで、物価が年2%ずつ上がっていくくらいのインフレへ誘導しようとした。これはいわゆるリフレ派と呼ばれる経済学者たちが、安倍さんが政権をとる前からとるべき政策として主張していたことであった。

その内容はどういうことだったかを総括してみると、今、日銀副総裁をやっているリフレ派理論家の中心の一人、若田部昌澄早稲田大学教授から、2005年くらいだったかと思うんですが、話を聞いたことがありました。「なんで日本経済はこんなに調子が悪いんですかね」と私はまだ大学院生であったんですけど訊いたところ、非常に縮めて言うと「それは日銀がおかしなことをやっているからだ。日銀が正しい政策をとれば日本経済はうまく回るようになるのだ」と。ものすごく単純化すればそういうお話を聞きました。私はそんなものなのかなと思う一方、やっぱり違和感もあったんですよね。発想としてあまりにエリート主義的すぎやしないかと。

もちろんそれは中央銀行当局が間違ったことをやっているようでは困りますけれども、中央銀行が正しいことをしさえすれば、寝たきり病人みたいになっている日本経済が突然元気になって走り出す。そんなことがあるんだろうか。そういう素朴な疑問をもちました。これはあまりにエリート主義的な発想じゃないかという気がしたんですね。