リアル「半沢直樹」 大王製紙内部の内ゲバ闘争
大王製紙元会長・井川意高氏の告白本『熔ける 再び』は、バクチやフェラーリの豪快武勇伝以外にも、グッと来る読みどころがある。一部上場企業の役員室で、こんな暗闘が繰り広げられているのか……。ドラマ「半沢直樹」ばりの下剋上の権力抗争が展開されたのだ。
ギャンブル問題が発覚すると、井川氏は大王製紙の社長職を辞任に追いこまれる。後釜の社長に就任したのは、井川家の血筋を引かない佐光正義氏(現・大王製紙会長)だ。大王製紙2代目社長の井川高雄氏(顧問=当時)と3代目の井川意高氏(会長=当時)、そして弟の井川高博氏(常務取締役=当時)は、佐光氏をはじめとする「大王製紙反体制派」から目の敵にされる。
〈父にだって、親子の情はある。刑事裁判中、できれば息子には実刑判決を食らってほしくないと願っていた。いざというとき担保に使えるように、父や弟や私が持っている関連会社の株式を、全部ボストンバッグに入れて大王製紙総務部の金庫に保管させた。「井川家として借金を支払う意思があることの表明だ」と言って、時価100億円相当の担保を大王製紙側に預けておいたのだ。
「佐光は逆臣だ」ということがはっきりわかった時点で、父は弟に「あのボストンバッグを取り返してこい!」と命じた。弟が大王製紙の常務取締役から外れたのは、2012年6月のことだ。当時はまだ大王製紙の役員だった。弟が総務部長に「ちょっと金庫のカギを持ってきて」と言ったところ、報告した者がいたらしい。佐光がすっ飛んできた。
「井川常務、何やってるんですか」
「何をやっているって、井川家のものをここに預けておいたのを、取りにきただけだ。ほれ、受領書もここに持ってきてある」
そう言ってボストンバッグを取り返そうとしたら、揉み合いになって弟はケガをした。(略)佐光による傷害事件であり、100億円の強盗致傷事件だ。〉(『熔ける 再び』150〜151ページ)