“クィアの人々”との対話進める教会

新型コロナウイルスの感染が世界に広がり、オミクロン株の急速な感染で多くの職場や工場では労働者不足が目立ってきた。その一方、コロナ規制を遵守しない労働者や職員が解雇され、ワクチン接種を拒否する労働者が職場を失うケースが増えてきた。「オミクロン株の感染者との接触者として自宅隔離を余儀なくされた労働者が突然、会社から解雇通告を受けたとして、労働者の権利を擁護する会議所に救いを求めている」というニュースが流れてきたばかりだ。

クィアの人々との対話に乗り出すヘッセ大司教(バチカンニュース2022年1月24日)

ところで、ドイツのローマ・カトリック教会ハンブルク大司教区に従事する聖職者、職員が教会に対し、「クィアという理由で解雇されるのは不当だ」として教会の労働規則の改正を要求するキャンペーンを始めたという。

クィア(Queer)とは「風変わりな」や「奇妙な」という意味だが、クィアな人々といえば、性的指向の少数派LGBTに属する人という意味に受け取られている。最近では、セクシュアル・アイデンティティ(性的指向)とジェンダー・アイデンティティ(性自認)を合わせた意味合いが強くなってきた。具体的には、ゲイやレスビアン、バイセクシュアルな性的少数派を意味する一方、トランスジェンダー、シスジェンダー、ジェンダーフレキシブルといった性自認を含む。

教会で従事するそのクィアの人々が「自分はゲイだ」といってカミングアウトすることが増えてきた。異性間の婚姻を支持し、同性婚に反対する教会側はそのクィアの人々を「教会の教えに反している」という理由で解雇できるから、クィアの人々は「教会の労働規約」を改正してほしいと訴えているわけだ。

それに対し、ハンブルク大司教区のステファン・ヘッセ大司教は24日、カトリック教会のクィアの人々のイニシアチブに感謝を表明し、「性的指向のために自分のアイデンティティを隠したりしなければならない教会は、私の意見では、イエスの精神とは一致しない。信憑性と透明性を恐れるべきではない」と語ったという。教会で働く125人のクィアの人々が、「自分の性的指向と性同一性に従って生きることが解雇につながらないように教会の労働法を変更してほしい」と訴えたことに対する大司教の返答だ。

同大司教はクィアの代表と会合し、「ドイツ教会で現在進行中の改革プロセスの中でセクシュアリティに関する議論が行われているから、教会の性道徳と教会の労働法についても改革が行われなければならない」と、エールを送っている。

ハンブルク大司教区だけではない。パーダーボルン大司教区でも今年に入り、教区のワーキンググループ「クィア・センシティブ・パストラル」が活動を開始している。ハンス・ヨーゼフ・ベッカー大司教は昨年12月、「私たちの大司教区では、クィアの人々に対する牧会的なケアが実現され、それを通じてクィアの人々が受け入れられ、歓迎されていると感じることが大切だ。クィアの人々の経験が大司教区内で活用され、大司教区の発展にもつながれば幸いだ」というのだ。

興味深い点は、クィアの人々の要求をバチカンニュースが1月24日、大きく報じていることだ。最近、生物学的性と性自認が完全に一致していると感じる人が少なくなってきたという。男性、女性のどの性にも属さない性自認(ノンバイナリー)を主張する人も出てきた。バチカンニュースは性的少数派の動向を結構、頻繁に報じ出している。

ただ、教会では全ての職員、聖職者は教会の基本的なルールに従わなければならない。彼らは自身の生き方を教会の信仰と道徳と一致しなければならない。同性婚は教会では認められていないから、ルール違反となる。そのような中でハンブルク大司教区やパーダーボルン大司教区のように性的少数者との対話を深めようとする動きが出てきているわけだ。

教会とクィアの人々の対話は、社会の多様性というトレンドにはマッチするが、クィアの人々は「差別の是正」だけを求めているのではなく、その「生き方の認知」を願っているのだ。教会は社会の多様性、寛容という言葉に惑わされ、危険な対話に引き込まれている、ともいえる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年1月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。