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【挨拶】全国信用組合大会における挨拶

日本銀行副総裁 雨宮 正佳
2021年10月15日

1.はじめに

本日は、全国信用組合大会にお招き頂き、誠にありがとうございます。昨年度は、残念ながら、新型コロナウイルス感染症拡大の状況に鑑み、大会が中止となりました。感染症の影響はなお続いているものの、こうして2年ぶりに本日の大会が無事開催されますことを、心よりお祝い申し上げます。

信用組合業界の皆様におかれては、「相互扶助」を理念とする、中小企業・小規模事業者や住民による協同組合組織形態の金融機関として、地域経済を支え、ひいてはわが国経済の発展に貢献してこられました。あらためて皆様の日頃のご尽力に対し、日本銀行を代表し、深く敬意を表します。

本日は、はじめに、最近の経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営についてご説明し、次に、金融システム面の話題についてお話しします。

2.最近の経済・物価情勢と日本銀行の金融政策運営

まず、経済情勢についてお話しします。わが国経済は、新型コロナウイルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にありますが、基調としては持ち直しています。夏場における感染拡大の影響が残るもとで、飲食や宿泊といった対面型サービスへの下押し圧力は依然として強く、個人消費は引き続き足踏み状態となっています。一方、輸出や生産は、一部で供給面の制約を受けつつも、海外経済の回復を背景に、増加を続けています。こうしたもとで、企業収益は改善を続けており、これが設備投資の持ち直しにもつながっています。9月短観では、業況感が製造業をけん引役に5四半期連続で改善したほか、今年度の設備投資計画もしっかりとした増加が見込まれています。このように、企業部門における前向きの循環メカニズムが、経済全体の改善を支えています。

先行きのわが国経済は、当面、対面型サービス部門を中心に低めの水準が続くものの、感染症の影響が徐々に和らぐにつれて、回復傾向が明確になっていくとみています。わが国のワクチン接種率は、米国や欧州と遜色ない水準まで上昇しています。感染者数も減少傾向に転じ、今月から公衆衛生上の措置も緩和されました。こうしたもとで、感染抑制と消費活動の両立が進んでいけば、個人消費は、ペントアップ需要にも支えられて、持ち直していくと考えています。もっとも、感染症の動向やその個人消費への影響については、なお不透明感の強い状況です。加えて、最近では、アジア地域でのサプライチェーン障害等による供給制約の影響にも注意が必要です。

物価について、消費者物価の前年比は、足もとでは0%程度となっています。ただし、本年春の携帯電話通信料の下落が消費者物価全体を大きく下押ししており、様々な一時的な要因を除いた実力ベースでみると、小幅のプラスで推移しています。感染症の影響により、個人消費の低迷は長引いていますが、企業が値下げにより需要喚起を図る行動は拡がっておらず、物価の基調は底堅さを維持しています。先行きについては、エネルギー価格などの上昇を反映して小幅のプラスになったあと、経済の改善に伴い企業の価格設定スタンスが積極化するもとで、徐々に上昇率を高めていくとみています。

続いて、金融政策運営です。企業等の資金繰りは、ひと頃に比べ改善しているものの、感染症の影響の長期化を主因に、なお厳しさがみられます。短観や各種のサーベイ調査をみますと、資金繰りの厳しさは、業種別でみると対面型サービス業、規模別にみると中小・零細企業において目立っています。日本銀行は、本年6月に、「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」を来年3月末まで延長しました。引き続き、このプログラムのもとで、企業等の資金繰りをしっかりと支えていく方針です。

3.金融システム面の話題

次に、金融システム面の話題です。

わが国の金融システムは、引き続き、感染症が国内外の経済・金融面に大きな影響を及ぼすもとでも、全体として安定性を維持しています。

昨年春以降、皆様方におかれては、実質無利子・無担保融資など政府の施策等も活用しながら、感染症の影響を大きく受けた企業や家計に対する資金繰り支援を積極的に行ってこられました。そうしたご努力の成果もあり、足もとまで中小企業の資金繰りは総じて円滑に行われ、倒産件数やデフォルト率も低く抑えられています。

そのうえで、今後の信用組合に期待される役割について、2点申し述べたいと思います。

1点目は、ウィズコロナ・ポストコロナにおけるきめ細かな企業支援の取り組みです。

感染症の影響を大きく受けた企業においては、本業の立て直しが急務となります。また、人々の生活様式が感染症の影響により構造的に変化していくとすれば、それに対応して企業のビジネスモデルも変容を求められる可能性があります。先行き景気が回復していく中で、金融機関による企業支援の重点は、当面の流動性の確保から、こうした企業の実情に即した本業支援へと移っていくものと考えられます。中小企業に対するビジネスマッチングやコンサルティングサービス、高齢化が進む地元企業経営者の事業の承継支援などがますます重要になります。

この点、信用組合は、「相互扶助」の理念のもとで、中小企業や小規模事業者、地域住民といった組合員によるそれぞれのコミュニティを支え、コミュニティとともに歩んでこられました。引き続き、信用組合業界が、地域の生活に深く関わりながら、その課題解決や支援の取り組みを積極的に進めていかれることを期待します。

2点目は、信用組合自身の経営基盤の強化です。

地域経済は、人口減少や高齢化などの構造要因に加え、先ほど述べたような感染症の影響を受けて、厳しさを増しています。そうした環境のもとで、信用組合が、将来にわたって地域経済をしっかりと支え、金融仲介機能を円滑に発揮していくためには、自らの金融サービスの提供力を高めるとともに、経営基盤を強化していくことが重要です。また、金融機関自身がデジタル化や働き方改革、SDGsといった社会的な変化や要請に対応していくためにも、経営基盤を強化しておく必要があると思います。

日本銀行が3月に導入した「地域金融強化のための特別当座預金制度」は、皆様方の前向きな取り組みを後押しするものです。多くの信用組合において、系統中央機関である全国信用協同組合連合会を通じて本制度を利用しながら、経営基盤強化を積極的に進めておられると承知しています。今後とも、こうした取り組みを継続して頂ければと考えています。

4.おわりに

最後になりましたが、今後の信用組合業界の皆様方のご健勝とご発展を祈念いたしまして、私からのご挨拶とさせて頂きます。ご清聴ありがとうございました。