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「他国から買えばいい」ワクチン供給が遅れた日本 輸入に頼り陥る安全保障崩壊の危機

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「他国から買えばいい」ワクチン供給が遅れた日本 輸入に頼り陥る安全保障崩壊の危機

毎回、身近なお金のことを書かせていただいていますが、今回は、新型コロナについて一言わせていただきたいということもあり、少し大きなお金の話を書きたいと思います。

戦後、日本は工業でめざましく発展し、経済大国となりました。

お金持ちになったのですが、そのために、国民の安全は、必ずしもお金では買えないということを忘れてしまっているのではないかと思います。

その現実を突きつけたのが、新型コロナ禍でした。

新型コロナでは、ワクチンを大量摂取できた国から平常生活に戻りつつあります。

最初に集団免疫をつくりあげたイスラエルでは、マスクをとり、すでに日常生活が戻って来ています。

イギリス、アメリカでも、オックスフォード大の研究者が運営する統計サイトを見ると、5月3日現在の人口100人あたりのワクチン摂取率は約73回となり(5月3日現在)、集団免疫を獲得しつつあります。

日本の接種率は韓国よりも低い約3回と、先進国の中で最低です。

その昔、日本では、ワクチン先進国と言われていました。1890年(明治23年)、北里柴三郎が破傷風菌の毒素を中和する抗体を発見してワクチンの基礎を作ったからです。

そんな日本が、なぜ今のような状況になってしまったのか…それは、自国でワクチン開発などしなくても、欧米から買えばいいと思っていたからです。

お金にならない基礎研究をおろそかにした日本

ワクチンは他国から買えると思っていた

ワクチン開発には、最新の遺伝子組み換えなどをつかった基礎研究の積み上げが必要です。

小泉元首相は、所信表明演説で、明治初期、困窮していた長岡藩が救援で届いた100俵の米を、すぐに食べてしまわず学校づくりに回し、人材を育成したことを引用し、「米100俵の精神」を説きました。将来のために備えようということです。

ところが本人は、カネにならない基礎研究を削る「大学改革」を推進し、国立大学の民営化にも着手しました。

そのため、日本の大学では研究者が育たず、見るに見かねたノーベル医学・生理学賞受賞者の大隅良典栄誉教授や本庶佑特別教授が、私費を投じて基金をつり、研究者を助けるというありさまです。

昨年の第一次補正予算を見ると、国内のワクチン開発費は100億円なのに、国際的なワクチンの研究開発等には216億円を投じています。

自国でワクチンをつくる気がなく、海外から買えばいいという考えです。

その代わり、Go toキャンペーンには、1兆7,000億円もの巨額な予算をつけました。

いっぽう、その間に欧米の政府は、巨費を投じ、通常なら10年以上かかると言われているワクチン開発を、わずか11ヶ月という驚異的なスピードで実用化までこぎつけました。

9月までに、余ったワクチンを回してもらう

他国から買えるのはいつの日か

なぜ、驚異的なスピードでワクチンができたのかといえば、あらかじめ遺伝物質をワクチンなどに活用する技術を積み上げていて、それがすぐに応用できたから。

しかも、行政が臨時的措置として、できた薬の安全性を確認する治験が早まるように対処しました。あらかじめ危機対応の法律ができていたために、本来なら2~3年はかかめ治験が、スムーズに進んだのです。

さらに、人命が失われることを重視して、審査までの時間を短縮したことも大きかった。

しかも、ワクチンができていない段階で、薬品会社と高額な買い取り契約を結んだので、製薬会社に開発費が潤沢に行き渡りました。

結果、欧米の多くが、ワクチン接種によって、コロナを制圧しつつあります。

菅首相は、日本でも9月までにはすべての人に供給できるだけのワクチンを確保したと胸を張ります。

けれどこれは、9月までには欧米での接種がほとんど終わり、ワクチンが余るので、余ったものを日本にも回してもらえるということなのです。

欧米では、ワクチン開発は、自国民を守る安全保障の一環なので、そのつもりでこれまでもお金にならなくても政府が大切に育成してきました。

その、自国民を守るための貴重なワクチンを、いくら金を出すからといっても、おいそれと日本になど回せるわけはないでしょう。

そのため、ワクチンが打てない日本では、5月9日現在で死者数が1万923人となり、東北大震災の死者数1万5,899に迫る勢いとなっていて、大阪の100万人あたりの新規死亡者数は、あの感染爆発しているインドを抜いたとさえ言われています。

ワクチン同様、食料も手に入らなくなるかも

食料さえもなくなってしまう将来

自国民の安全保障を軽視しているというのは、ワクチンに限った話ではありません。

「21世紀は飢餓の世紀」と言われ、

「人口爆発で食糧不足に世界が見舞われる」

と予測されています。

そのため、欧米など先進国では、食料を安全保障の一環と位置づけ、農業に多額の補助金をつぎ込んでいます。フランスの農家の収入の8割は政府の補助金だと言われています。

農業に多額の補助金を投入する理由は、ワクチンの基礎研究と同じで、一朝一夕にはできないので、育成しておかなくてはいけない安全保障の一環だからです。

結果、今や、先進国と言われる国々は、自国で自給自足ができる農業国となっています。いっぽう発展途上の国々は、工業という短期間で手短に金が稼げる方法で儲けた金で、先進国から穀物などを買っています。

いざ世界が気候変動などで食糧危機に陥ったら、今回のワクチン同様に、まず先進国は自国民を飢えから救うことを最優先して食料を確保し、余ったら日本にも回してくれるということになるのでしょう。

そうなると、新型コロナでワクチンが手に入らずにたくさんの人が死んだように、日本でも、多くの餓死者が出るかもしれません。

「飢餓の時代」に備えて補助金を出して農家を育成する先進国と、補助金で田畑を潰し、TPPで酪農まで潰そうとしている日本。

なんと愚かな国だろうかと思うのは、私だけでしょうか。(執筆者:経済ジャーナリスト 荻原 博子)

《荻原 博子》
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荻原 博子

執筆者:経済ジャーナリスト 荻原 博子 荻原 博子

経済ジャーナリスト 1954年生まれ。経済事務所勤務後、1982年からフリーの経済ジャーナリストとして、新聞・経済誌などに連載。女性では珍しく骨太な記事を書くことで話題となり、1988年、女性誌hanako(マガジンハウス)の創刊と同時に同誌で女性向けの経済・マネー記事を連載。難しい経済やお金の仕組みを、生活に根ざしてわかりやすく解説し、以降、経済だけでなくマネー分野の記事も数多く手がけ、ビジネスマンから主婦に至るまで幅広い層に支持されている。バブル崩壊直後からデフレの長期化を予想し、現金に徹した資産防衛、家計運営を提唱し続けている。新聞、雑誌等の連載やテレビのコメンテーターとしても活躍中。「私たちはなぜ貧しくなってしまったのか」(文藝春秋)「一生お金に困らないお金ベスト100」(ダイヤモンド社)など著書多数。 寄稿者にメッセージを送る

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