2021.05.11
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「血のしょんべんが出るほど努力しましたか」…松下幸之助ら偉人の素顔を、“迷言”から読み解く

人の生き方は、いつでも言葉に凝縮される。だからこそ困難を乗り越えて、偉業を成し遂げた偉人の「名言」に、私たちは時に励まされ、奮い立たされるのだろう。

だが、「偉人」と呼ばれる歴史人物たちもまた、私たちと同じようなことで悩み、葛藤し、不安を抱いていた。いや、むしろ、偉人は強烈な個性を持つだけに、より生きづらさを抱えていたといってもいいだろう。常識の枠外で生きる偉人は、周囲となじめずに疎外されやすく、その嘆きはときに「迷言」となって表れる。

名言だけでなく迷言を読むと偉人の素顔を知ることができる――。そんなテーマのもと、名言と迷言の両面から、100人もの偉人の人生を描いたのが、新刊『偉人名言迷言事典』(笠間書院)である。

「猿に見せるつもりで書け」

天才はしばしば私生活が破綻している。アインシュタインはその最たる例で、社会生活を営むのに困難があった。

物理学者アルバート・アインシュタイン[Photo by gettyimages]
 

ある日のことだ。アインシュタインが在籍するプリンストン高等研究所の学部長秘書のところに、彼の住所を尋ねる電話があった。当然、勝手に教えることはできない。そう断ると、電話の主はしばし沈黙して、悲しげにこう言ったという。

「それは困った。実はそのアインシュタインが、私なんです。家がどこだったか、わからなくなってしまったんですよ」

いきなり暴言を吐いて、相手を驚かせたのは、大ベストセラー『学問のすゝめ』を著した福澤諭吉である。あるとき、諭吉のもとに「憲政の神様」と称される尾崎行雄が訪れた。何でも、文章を書いて生計を立てることを決意したという。

『学問のすすめ』などを著した福澤諭吉(ウィキメディア・コモンズ)

独立の挨拶に訪れた尾崎だったが、諭吉は文章のアドバイスとして、こんなことを言い放つ

「猿に見せるつもりで書け。おれなどはいつも猿に見せるつもりで書いているが、世の中はそれでちょうどいいのだ」

大上段から書かないのは文章の鉄則だ。諭吉はそれを伝えたかったのだろうが、口が悪すぎて、真意がまるで伝わらず、尾崎を怒らせてしまっている。

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