インターネット広告費が広告費全体の30%以上を占める結果となった2019年。ついにテレビの広告費総額を追い抜きました。テレビCMをはじめとする広告宣伝が中心だった企業の広告戦略も、本格的にインターネットを意識せざるを得なくなってきました。

インターネット広告が普及してきた背景には、スマホを含めたインターネット環境の浸透をはじめ、さまざまな要因があります。雑誌および新聞広告、ラジオ広告、テレビ広告の4媒体との本格的な共存を検討する時期を迎えているいま、企業はインターネット広告をどうとらえ、消費者や広告代理店とコミュニケーションしていけばいいか、調査結果を参照しながら考えます。

はじめてテレビを超えたインターネット広告費

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(画像=metamorworks/stock.adobe.com)

2020年3月に電通が発表した2019年の国内広告費において、大きな変化がありました。インターネット広告費が史上はじめてテレビ広告費を追い抜いたのです。インターネット広告費は前年比で19.7%増え、インターネット広告費全体で2兆円を超えました。

2019年の広告費全体では、前年の2018年よりも6.2%増加した6兆9,381億円を記録。8年連続で前年を上回りました。

一方、インターネット広告以外の広告費は伸びたのでしょうか?雑誌および新聞広告、ラジオ広告、テレビ広告の4媒体の広告費は5年連続で減少しました。新聞広告は前年比5%減の4,547億円、雑誌広告費は9%減の1,675億円と落ち込みが大きくなりました。テレビ広告は前年比2.7%減の1兆8,612億円でした。インターネット需要の拡大と今後の成長を見据えると、これまでテレビCMを核としてきた広告業界は、インターネット広告特有の事業形態やテクノロジーへの理解を本格的に進める必要が出てきます。これが業界の再編をもたらすという指摘もあります。

物販系のECプラットフォーム広告費がインターネット広告市場の中心に

上記したように新聞、雑誌、ラジオ、テレビと4つの媒体による広告費が前年割れとなっている中、大手IT企業を中心としたインターネット広告費は着実に増加しています。

電通の調査では今回、新しい広告領域として、生活家電・雑貨、書籍、衣類、事務用品などの物販系ECプラットフォーム広告費がインターネット広告費として追加されました。物販系ECプラットフォーム広告費の1,064億円という市場規模は、インターネット広告市場の短中期的な拡張の中心軸になることを示すと電通は説明しています。

大手企業がDXへの取り組みを加速。スマートフォンとの連携は前提

2019年の結果を踏まえると、他媒体が軒並み前年比減だった中で、19.7%増を記録したインターネット広告は、新しいフェーズに入ったと考えられます。

従来のインターネット上に掲載される検索結果ページ上に掲載する広告やWebサイト上に掲載する広告、アプリ内で表示される広告、動画広告、SNS広告などの運用型広告も引き続き需要があります。

今後はさらに、大手企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みを加速しそうです。たとえば、資生堂は自分の肌に合わせた化粧品を提案してくれるアプリを開発。グンゼは肌着にまつわるユーザーデータを収集し、高齢者のサポートや労働現場で働く従業員の体調を管理する新たな事業に活用しようとしています。こうした取り組みを訴求する際は、スマホとの連携などを前提にすることが多いため、必然的にインターネット広告を選択するケースが多くなると考えられるのです。

2020年開始の5Gネットワークは追い風に

2020年、主要通信企業が5G回線のサービスを開始しました。2時間の映画を3秒でダウンロードできるといわれるほどの高速性が話題の5G。5Gにより、動画だけでなく、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)を活用した旅行やゲームなどのコンテンツ利用の快適さが増します。

いま現在は、5Gを必要とするほどのコンテンツがあまりないと言われていますが、今後在宅での需要増を背景に、5Gの高速性を前提としたリッチなコンテンツが登場すると、ますます人々がインターネット上で費やす時間が増えると予想されます。現時点で言うなら「テレビではなくYouTubeを見ることが多い」という若者が増えていることが、端的な例と言えるでしょう。

企業のブランド訴求という側面から見ると、インターネット広告にはリッチな映像を提供できることにとどまらず、ユーザーの気軽な参加や調査の実施など双方向性を打ち出しやすいというメリットがあります。企業にとっては「広告を出しただけで終わり」という状況から、自社の顧客との継続的な対話が可能になります。

このように、通信環境などのインフラの整備も相まって、インターネット広告へのニーズは長期的には確実に高まっていくと考えられています。

従来メディアとデジタルの融合、または組み合わせが求められる

もちろん、テレビ、新聞、雑誌、ラジオ媒体の数字が大幅に下がっているわけではなく、すぐにインターネット広告が広告全体の中心になるというわけではないでしょう。しかし、若者のスマホ依存、SNSなどの共通基盤によるコンテンツのグローバル化、インターネット広告の質的な成長を考えると、大きな流れとしては、広告の相対的なデジタル化は避けられない流れと考えられます。企業は、少なくともテレビ、新聞、雑誌だけを広告媒体として意識すればいいという状況ではなくなっていくでしょう。

統計として2019年の広告費全体の32.1%を占めているプロモーションメディア広告費が注目されます。プロモーションメディア広告に該当する媒体は、屋外看板広告、公共交通機関内の広告、折り込みなどチラシ広告、ダイレクトメール、フリーペーパー、POP広告、イベント広告、展示会広告、映像広告などです。

主要都市において、屋外看板広告や公共交通広告が紙ではなく、大型ディスプレイなどのデジタルサイネージに移ってきていることに気づきます。これもデジタル広告が増える可能性を示しているのです。

インターネット広告が台頭してくる中で、これまで中心であったリアル広告との融合は、オプションではなく本題になってきています。広告を出す企業の視点では、自社の事業内容に合わせた最適なメディアの組み合わせが、ますます重要になります。

課題もあるインターネット広告の今後

ここまで、インターネット広告が増えていく可能性を指摘しましたが、課題もあります。うまく対処していかなくては、インターネット広告自体の信頼性は失われ、媒体としての成長も見込めなくなるでしょう。いくつかの課題を見てみます。

課題1:セキュリティへの懸念

インターネット広告は、検索エンジンの精度が向上してきており、虚偽コンテンツなどを撲滅する方向へと着実に動いています。しかし、サイバー攻撃などにより、ユーザーが目的とするサイトに似せた不正サイトに誘導し、「身代金」を要求する「ランサムウェア」と呼ぶ不正プログラムの存在が世界的に問題になっています。

課題2:アドフラウドによる各重要数値の水増し

アドフラウドというロボットやプログラムによる悪質な広告クリックやインプレッション行為も懸念されています。通常、広告費はこのクリック数やインプレッション数に基づいて請求が発生します。無駄な広告費が発生する被害が起こり得るため、深刻です。今後、インターネット広告の拡大を考えると、運用側としては確実に解決していかなくてはならない問題です。

課題3:アドブロックによる非表示対策

Googleなどが提供するアドブロック機能の普及も、広告運用者にとっては切実な問題です。リターゲティング広告のような潜在ユーザー向け広告表示活動に不満をもつユーザーは、今後さらにアドブロックによる非表示機能の利用が進むでしょう。

悪質な広告が増えて、ネット広告に対しての信頼性や共感が少なくなれば、ますますアドブロックによる非表示設定が増えてきます。そのため、広告表示に向けたガイドラインやルールの見直しが必要になるでしょう。

課題4:ターゲティング広告に影響するクッキー規制

すでに動きがはじまっているのが、Googleによる「クッキー」の段階的な規制です。ターゲティング広告の場合、ユーザーのブラウザに残ったクッキーをもとにユーザーの属性を判断し、それに応じた関連広告を展開します。そのため、ターゲティング広告を活用するユーザーにとって、クッキーが制限されたり、使えなくなったりすれば、ターゲットするユーザーが特定できず、ターゲット広告を打てなくなってしまいます。

拡大するインターネット広告。双方向性が次世代のキーワード

今回は、インターネット広告費が広告費全体の30%以上を占め、テレビの広告費総額を追い抜いたという調査結果を基に、今後の企業と消費者のコミュニケーションのゆくえを展望しました。スマホへの依存度の高まりや、5Gを背景にしたウェブコンテンツの質の向上、さらにインターネットが持つ双方向性という強みを生かす形で、インターネット広告がさらに広まる見通しを示しています。

特に、双方向性はキーワードになりそうです。広告を出す企業は消費者との継続的な対話が不可欠になり、間に入る代理店はそれをサポートしなくてはなりません。このあたりがデジタルを交えた時の広告業界に課せられる課題と言えるでしょう。また、インターネット広告にはまだまださまざまな課題があります。デジタル化の普及とセキュリティなどの課題解決という、攻めと守りのバランスを取ることが、インターネット広告普及のためには求められてきそうです。(提供:JPRIME


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