とはいえ、種の絶滅の瞬間を目撃した人は(ほとんど)いないでしょう。生物多様性の喪失は非常に実感しにくい問題です。
では、人間はどのようにして生物多様性の喪失を認識したのでしょうか? また、実際にどの程度のひどさで絶滅が進んでいるのでしょうか? 現在の生物多様性の喪失は、「生命史上最悪の大量絶滅」なのでしょうか?
絶滅の危機に瀕する100万種
人間活動のせいで、多くの生物種が絶滅の淵にまで追いやられています。乱獲、生息地の破壊・分断、環境汚染など、人間のさまざまな活動が生き物にダメージを与えているのです。
この事実はほとんどの読者がご存じでしょう。トキ、コウノトリ、二ホンカワウソ、ジャイアントパンダ、トラ、チンパンジー、ホッキョクグマ、……彼らは、絶滅の淵に追いやられている生き物のひとつです。
しかし、絶滅の危機に瀕している生き物(絶滅危惧種)が地球上に何種いるかをご存知の方は、少ないのではないでしょうか。
「絶滅危惧種は何種いるか?」──この問いに対するもっとも確からしい答えは、IPBES(生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットホーム)が報告しています。
IPBESは、科学と各国の政策との連携強化を目的として、国連環境計画の提案により設置された政府間組織です。2019年5月、IPBESは絶滅危惧種の数に関する報告書を発表しました。
この報告書によれば、動植物だけで、少なく見積もっても100万種の絶滅危惧種がいるそうです。その内容は世界を驚かせ、有名な科学雑誌「Nature」が速報を掲載するほどでした。
IPBESが見積もった100万という種の数は、多くの人にとって想像を超える規模であり、にわかには信じられないことでしょう。
特に高校で生物を履修した人は、この傾向が強いかもしれません。というのも、高校生物では、(現在までに命名記載された)動植物の種の数は全部で161万種(動物が132万種、植物が29万種)だと教えられているからです(図1)。
161万種のうちの100万種が絶滅危惧種だとすれば、動植物種全体の62パーセント以上を占めることになります。しかし、絶滅危惧種の割合は、本当にそんなに高いのでしょうか?
それでは、IPBESが絶滅危惧種を100万種以上と見積もった、その根拠を紹介しましょう。