「キスシーンは1回だけ、セックスシーンもダメ」
「フェイスシールドいうんですか、溶接工が被るようなやつ。あんなんつけて、マスクして撮影が始まったらしいですわ。マニュアルがあってね。5人以上、集まった群衆シーンはダメ、キスシーンは1回だけ、セックスシーンもダメ、とかね。そんなことをしなければ、生きていけない現実があるということですよ」
こう嘆くのは、井筒和幸監督である。
出世作となった『ガキ帝国』、ナインティナインを起用、ブルーリボン賞最優秀作品賞を受賞した『岸和田少年愚連隊』、沢尻エリカのデビュー作で日本アカデミー賞優秀作品・監督賞を受賞した『パッチギ!』、『ヒーローショー』、『黄金を抱いて飛べ』など、常に話題作を提供してきた。
その井筒監督も今、コロナ禍のなかにいる。構想から3年、今年初めに完成し、5月に封切りを予定していた『無頼』が延期されて、12月12日から新宿Ks cinemaほかで全国ロードショーを予定している。
映画『無頼』
タイトル通り、戦後の混乱期を、腕っぷしと度胸、世の流れを見切る才覚で生き抜いた無頼の物語。ヤクザの出世ストーリーが昭和の高度成長期に重なるだけに、暴力が日常の映像は熱く激しい。銃撃戦に乱闘、女房を組み敷く主人公の背中の入れ墨、女性上位で激しく腰を振る愛人……。
井筒監督らしいアウトローの世界は、自粛の映画界ではとても撮れない。
「当たり前ですよ、そんなもん。いずれ、やれるでしょうが……」