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小説との出会いは「段ボール箱」

親は教育の一環で本を読ませようとしていましたが、文学や小説には一切興味がない子どもでした。唯一、百科事典の『こども大百科』が好きで、あとは漫画ばかり読んでいました。

『ドラえもん』はバイブルです。小学生の時は『ハレンチ学園』や『トイレット博士』など親からすれば読んでほしくない漫画を立ち読みしていましたね(笑)。今でも漫画が好きで、だいたいの青年誌は毎週購入し、休みにまとめて読むのが楽しみの一つです。

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読書観が劇的に変わったのは大学時代。中学校の時の友達から一時的に預かった段ボール箱が小説との出会いでした。彼と連絡が取れなくなってしまったので、箱を開けて中の本を読み始めたのです。その中の一冊が、遠藤周作の『わたしが・棄てた・女』でした。

 

大学生の吉岡に、それこそゴミのように棄てられた女性・ミツは、過酷な運命の中でも、献身的に人を愛する姿勢を貫いていきます。今でも覚えているんですが、クライマックスを読んだ場所は、友達との待ち合わせの合間に寄った東大の図書館でした。

没頭し、結末に圧倒的な衝撃を受けました。本を読んで感動したことがまったくなかったものだから、もう涙が止まらなくて。この経験から小説をたくさん読むようになったんです。

村上龍もその段ボール箱で出会った作家です。最初にハマったのが『走れ! タカハシ』。彼の作品で文体の魅力を発見しました。

「幸福は、必ず秘密と嘘に支えられているものなのだ」のように、村上龍の文章は切れ味鋭く、とにかく格好良い。今の日本を踏まえて村上龍作品を選ぶなら、『ヒュウガ・ウイルス 五分後の世界2』です。

日本の九州のヒュウガ村で、エマージングウイルスが現れ、特効薬の開発をめぐる人々の姿が描かれます。テーマになっているのは「危機感」です。常に危機の中を生き抜いてきた人だけがウイルスから最終的に生き延びられることが示唆される。

村上龍は、世の中の問題点のようなものを、巧みに小説の形で現出する優れた作家です。作品で書かれた後に、現実に同様の事件が起きるなど予見的な内容にも驚かされます。

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