財界の「終身雇用はもう限界」発言、やっぱり無責任じゃないですか?

「社会全体」の問題として考えたい
「終身雇用はもう持たない」——財界からそんな声が上がり、議論を呼んでいる。たしかにグローバル化の中、企業はコストを圧縮し生産性を上げていく必要があるだろう。しかし、戦後日本社会という仕組みの中で合理性を発揮してきた終身雇用や解雇規制を、それだけを取り出して「不合理だからやめる」とするのは乱暴ではないか。まして「国民生活の向上」を目標とする経団連は、経営の問題だけではなく、同時により慎重に「社会」のことを考えるべきではないか。東工大の西田亮介准教授が解説する。

経団連の目的は「国民生活の向上」

突然だが、「経団連」とはどんな団体か、ご存じだろうか。

一般社団法人日本経済団体連合会、通称、経団連は1946年に設立された、日本有数の経済団体であり、経済界きっての利益団体である。

経団連のホームページによれば、2018年5月31日時点の企業会員は1376、団体会員156、特別会員31と加盟者は1563にのぼる。

長く自民党への献金をあっせんし、現在でも政策評価を通じて、自民党の政治資金団体への献金を呼びかけるなど、政治や政界再編などでも大きな影響力を有していることが知られている。

定款によれば、その目的は、下記のように記されている。

(目的)
第3条 この法人は、総合経済団体として、企業と企業を支える個人や地域の活力を引き出し、我が国経済の自律的な発展と国民生活の向上に寄与することを目的とする。

経済界のみならず、「国民生活の向上に寄与することを目的」としていることを覚えておいてほしい。

経団連の中西宏明会長〔PHOTO〕Gettyimages

最近、その経団連の中西宏明会長が「終身雇用を前提にすることが限界になっている」と定例会見で発言し、話題となった。

さらに、これまで複数の名誉会長を輩出するなど経団連で長く重要な役割を果たしてきたトヨタ自動車の豊田章男社長も、日本自動車工業会の記者会見で、同会の会長として「なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べた

両者の「日本型雇用」のあり方と将来像についての一連の発言、アプローチは、大きな物議を醸している。

本稿では経団連の重鎮が立て続けにこうした発言をした理由と背景、そしてそれが日本社会にどのような影響を与えうるのかを考えてみたい。

こうした発言が、グローバル化のなかで過剰な雇用を抱えることが難しくなった(大)企業の都合によるものであること、終身雇用制度や解雇規制はほかの社会制度とセットで語るべきものであること、その他の社会制度を現状のままに解雇規制「だけ」を緩和するのには慎重になるべきことなどを明らかにしていく。

 

解雇規制緩和は、財界の悲願

ではまず、この発言の意図とはどんなものだろうか。

議論の前提を確認しよう。現状、日本企業は、従業員を解雇しにくい環境にあると言われる。日本において企業都合の解雇、いわゆる「整理解雇」には金銭補償をしたうえでの解雇も認められないなど、少なくとも形式的には比較的厳しい制約が設けられているし、労働契約法も「労働者の保護」を強調する(ただし、運用実態に基づき、日本の解雇規制は必ずしも強いとはいえないという学説もある)。

なかでも、しばしば参照される「人員削減の必要性」「解雇回避の努力」「人選の合理性」「解雇手続の妥当性」を満たさなければ解雇をできないという、いわゆる整理解雇の四要件はよく知られている。

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