暴言を受ける子どもたち
―著書の『空に向かってかっ飛ばせ!』は、過剰なまでの「勝利至上主義」が蔓延する少年野球界に疑問を投げかける一冊です。この問題に、球界屈指のスラッガーである筒香さんが声を上げたことの意味は大きいと思います。
僕がずっと感じていたのは、理不尽な指導からひとりでも多くの子供たちを守りたい、ということでした。
スポーツ界における体罰やパワハラがこれだけ問題視されている現状でも、勝つことが最優先される少年野球の現場では、いまだに失敗をすれば怒鳴られたり、暴言を受ける子供たちがいると聞きます。怒られると、子供たちは委縮してしまいます。
「またエラーして怒鳴られるのか」「打てなくて叩かれるのか」……。一度そんなふうに思ってしまえば、よいプレーはなかなか生まれません。
もちろん、これまでの指導にもいいところはあったのでしょうが、変えるべき部分もたくさんある。どこを変えるべきか、僕の考えを多くの方々に知っていただきたいという願いがありました。
―'15年12月にドミニカのウインターリーグに参加されたこともきっかけになったそうですね。
現地の少年野球の練習を見に行くと、子供たちが目を輝かせながら野球をやっているんです。バッターは思い切りバットを振るし、ピッチャーは少しでも速いボールを投げようとする。ミスをしても怒られないから、失敗を続けながら新しいチャレンジをしているのです。
そういうドミニカの子供たちの様子を見て、果たして日本の野球少年たちは、こんなに楽しそうに野球をやれているのだろうか、と考えるようになりました。
―勝つことを優先するあまり、送りバントを多用させ、エースが肘を壊すまで投げさせる。本書では、日本の少年野球で当たり前に行われている行為に対して、強い懸念を示しています。
小さい頃から無理に投げ続けたせいで、肘や肩を痛めて手術する子供はかなりの数にのぼるはずです。
なかには「良い先生がいるんだからケガをしても治してくれる。だから、思い切りやれ」と指導するチームもあると聞いています。子供たちの将来を考えたらケガをさせないのがベストのはずなのに、これでは本末転倒です。
その点、アメリカではメジャーリーグ機構が年齢別に「このくらいまでなら投げさせても大丈夫」という球数のガイドラインをはっきりと提示している。日本の少年野球界も早く追いつかなければいけません。