20年以上もヤクザを追ってきたライターが見た「裏社会のリアル」

鈴木智彦のわが人生最高の10冊

売れる題材はこの3つ

ヤクザ本を読むようになったのは、ヤクザ専門誌の仕事を始めてからです。以来、このジャンルの様々な本を読んできましたが、『血と抗争』はこれまでのすべての本のなかで1位です。

この本は溝口敦さんが25歳で書いたデビュー作。山口組への徹底した取材とともに、ヤクザに斟酌しない言葉選びに痺れます。

その書きっぷりから、僕が入ったヤクザ専門誌では、「こういう書き方をしたら、クレームがきますよ、やってはダメですよ」と新人に教えるためのテキストとして使われていた。そのくらいヤクザ取材の地雷、つまりタブーが詰まっている。面白くないわけがないんです。

'98年に文庫が刊行され、今なお版を重ねていることも、いかに凄い本かを物語っています。

ヤクザ本には売れる実録が3つあります。

第1に、今挙げた「山口組」。第2に映画でも有名な『仁義なき戦い』で描かれた「広島抗争」。3つ目が、戦後の混乱期に、東京に出現したインテリヤクザ「安藤組」。実際、この3つを押さえれば戦後のヤクザ社会はバッチリですので、他の2つの要素からも選んでいます。

 

『仁義なき戦い』は、広島抗争の中心人物・美能幸三の獄中手記を元に構成された作品です。美能は、『文藝春秋』のある記事で自分が悪役にされているのを知り、腹を立てます。

汚名を返上すべく手記を書き、実名掲載を条件に週刊誌に連載を許可しました。そんなノンフィクションの体裁をとっているにもかかわらず、実は、のっけから嘘が書かれています。ドキュメントとしての価値よりも、面白さを優先させた読み物であり、当時、それを責める人は誰もいなかった。

この本を読むと、戦後のヤクザとマスコミがいかに自由だったかがよくわかります。

鈴木智彦氏の近著

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