年間百本映画を観るクリエーターが「クリード」新作を激推しするワケ
これは、人生を証明する作品だ年間100本の新作映画を劇場で鑑賞する「映画フリーク」である一方で、高校生の頃よりボクシングマガジンとワールドボクシング(現ボクシングビート)とWOWOWエキサイトマッチを欠かさずチェックし、国内のタイトルマッチ観戦にも足繁く通う「ボクシングフリーク」でもある(株)電通のクリエイター・森本氏。
2つのジャンルに精通する氏が「映画史に残る傑作サーガの幕開け」とまで言い切るクリードシリーズの最新作が、『クリード 炎の宿敵』(1月11日全国公開)だ。「ボクシングを題材にした映画はほとんど観てきたが、これは屈指の作品」と氏がリコメンドする理由を聞こう。
画期的だった、新章の幕開け
2015年に「ロッキー」の新章として公開された「クリード チャンプを継ぐ男」。主人公は、ロッキーのライバルであったアポロの息子(正確には非嫡出子)アドニス。父の名前の重圧に苦しみながらも、ロッキーの師事を仰いでボクサーとして成長し、世界王者を目指していく物語だ。
新たな世代の作り手(ライアン・クーグラー監督)による、新たな主人公でリスタートした「新章」は、これまでのシリーズの興行成績記録を塗り替えるヒットを記録する。
この映画には、2つの画期的なポイントがあった。まず、ボクシングシーンの演出にサプライズがあったこと。次に、ロッキーに戦わせることをやめさせたこと。順に確認していきながら、新作「クリード 炎の宿敵」の紹介へと繋げていきたい。
4分32秒のサプライズ
前作「クリード チャンプを継ぐ男」の演出上のサプライズは、中盤の山場、地元のホープであるレオと主人公アドニスとの試合シーンにある。このシーン、驚くべきことにワンカットで撮影されているのだ。
試合開始前~1R~インターバル~KOシーン~試合終了後までの4分32秒間、カメラはワンカットのまま、リング内を自在に移動して、2人のボクサーを映し出していく。こんなボクシングシーン、今までの映画で観たことない!
2000年代に入ってから、ボクシング映画における試合シーンの撮影は革新の流れにあった。ボクシング中継を手がけるHBOの協力を得る映画が増えてきたからだ。
「リベンジマッチ」(2013年公開)や「サウスポー」(2015年公開)では、HBOの撮影協力に加えて、マイケル・バッファやジミー・レノン・ジュニアといったボクシングファンにはお馴染みのリングアナを起用することによって、中継さながらのリアルさが再現されていた。
ロッキーシリーズの中でも、2006年に公開された「ロッキー・ザ・ファイナル」は、その前年の12月に行われたミドル級タイトルマッチ、ジャーメイン・テイラー対バーナード・ホプキンス戦の前座として、試合シーンの撮影を行っている。実際の試合と同じ観客の前で撮られた試合シーンは、普段HBOで観るボクシング中継となんら変わらないルックに到達していた。
しかし、その上をいくのが「クリード」である。レオ戦の試合シーンは、中継的リアリズムとは対極にある撮り方だ。カメラマンをリング内に入れ、中継では絶対に獲得し得ない距離の近さで、ワンカットでファイトを捉え続けたのだ。