グローバリズムが国民を不幸にした

グローバリズムは共産主義国家を救済した

もちろん、古代エジプトあるいは縄文時代にはすでに「世界交易」が行われていた証拠が無数にある。江戸時代鎖国をしていた日本でさえ、長崎の出島でオランダ・ポルトガル・中国との交易は制限付きながら行っていた。

しかし、現在我々が「グローバリズム」と呼んでいる国家の枠を超えた広範囲にわたる大量の交易が普遍的になったのは、1980年代以降であろう。

1989年のベルリンの壁崩壊、1991年のソ連邦の消滅、さらには鄧小平が指揮した改革・開放政策は1978年にスタートしたが、1989年の天安門大虐殺を経て1992年に南巡講話が行われてから本格化した。

グローバリズムの利益を享受したのは、それまで西側先進国と隔離されて貧しさに悩まされていた、ロシアや中国などの共産主義国家である。

武装したキリギリスの集団が支配する、つまりアリが額に汗して蓄えた財産を暴力で奪うことが合法化された、共産主義圏ではだれもアリにはなりたくない。だから、武装するのは共産党員に限られるが、一般国民もキリギリス化して生産力は落ち、国家が成り立たなくなる。

実は自給自足が成り立たず崩壊しようとしていた共産主義を救ったのがグローバリズムなのだ。特に共産主義中国は、2001年に143番目のWTO加盟国になってから我が世の春を謳歌した。WTOの機能不全は以前から問題視されているが、共産主義中国は、その制度の不備をつき、自由貿易の利益を享受しながらも、国内の規制を温存し、外資系企業に対して公式・非公式に様々な圧力を加えてその活動を妨害した(事実、現在の共産主義中国の輸出依存度は約25%(米国は一ケタ)であり、輸出無しでは国が成り立たない)。

その被害を受けたのは、日本企業だけでは無く米国を含む世界中の企業である。しかし、グローバル企業といえども、巨大な共産主義中国政府に真っ向から刃向かうことはできず泣き寝入りしていただけなのだ。

その世界中の「声なき声」を代表して、中国と闘う姿勢を明示したのがトランプ大統領のアメリカである。

民主主義の基本は「国民国家」である

Gage Skidmore / flickr

トランプ大統領が掲げる「自国第一主義」に対する非難をよく聞くが、「自国第一主義」は民主主義の原則に従った行為なのである。

民主主義の基本は主権者と被支配者(国民)が一致することである。したがって、国民から選ばれた代表が統治するのが民主主義だが、この国民の中には外国人はもちろんグローバル企業も含まれていない。一部で「外国人参政権」などという奇妙な運動が行われているが、これはもちろん、反民主主義的行為である。

「国家は国民のものである」という民主主義の大原則に立ち戻っているのがトランプ大統領の「自国第一主義」である。

この流れで言えば、受け入れを拒否しているのに押し寄せる人々を「移民」と呼ぶことはできない。

例えば、独立後間もない時期の米国や一時期の欧州などのように「どうぞ来てください」と宣言すれば、移民と呼ぶことができるが、国境に壁を作ったり軍隊を配備して流入を阻止しようとする国に不法に侵入する人々が犯罪者であることは言うまでもない。ましてや、数千人単位でグループを作れば「侵略者」とでも呼ぶしかないことは、トランプ氏の言葉を待つまでもない。

個人レベルで言えば、パーティーに招待されて家を訪問するのは合法だが、呼ばれてもいないのに、家のドアをこじ開けて入るのは「強盗」であり撃ち殺されても仕方が無いということである。

賃金が上がらないのはグローバル化の影響である
例えば、人手不足だと騒いでいるのに、日本の若者(労働者)の賃金はさほど上がらない。グローバル化によって広がった市場において、多くの発展途上国(後進国)が「人間の安売り」=低賃金労働力の供給を行っているからである。

この「低コスト」の恩恵を受けているのは、もちろんグローバル企業である。彼らはどこの国に人間であれ、コストが安いほうが都合がよいのである。「高い賃金を払ってみんなで幸せになろうね!」などという古き良き日本(古き良き米国も・・・)の哲学は全く通用しない。

安倍政権の「移民政策」が色々議論されているが、介護、建設、飲食などの人材が不足しているのは給料が安いからである。だから給料をあげれば(例えば倍にするとか極端なことをすれば・・・)、人手不足などすぐに解消する。

そもそも、外国人がそのように日本人が敬遠する仕事を自ら進んで行うのは、本国の貨幣価値に換算すれば高給であるからに過ぎない。彼らも、(本国換算で)給料が安ければそのような仕事に見向きもしない。

長期的には、移民(外国人労働者)政策よりも少子化対策に国民の血税を使うべきだし、より短期的には、そのような業種の企業の経営者が業務の生産性をあげる努力をすべきである。

最近、居酒屋などの飲食店でタブレットによる注文が標準となりつつあるが、介護、建設、飲食などの業種ではこのような生産性向上のタネがいくらでもある。これまでカイゼンされなかったのは、低賃金労働者が十分供給されてきたからである。

したがって、このような業種の経営者は甘えを捨てて、移民(外国人労働者)などをあてにせず、生産性の向上による従業員給与の引き上げに努力すべきである。

実際、日本の高度成長期には、中学卒業生が「金の卵」と呼ばれるほどの人手不足が生じたが、(基本的に)移民や外国人労働者を受け入れていなかった日本は、「自動化」「機械化」で乗り切った。逆にそのことが、日本の機械産業やロボット産業を刺激し「高度成長」を牽引した。

逆に欧州では安くて豊富な(少なくとも当時はそう見えた)移民(外国人労働者)を潤沢に使えたため、機械産業やロボット産業で日本の後塵を拝し、しかも「移民問題」という、現在の欧州における最大級の問題の原因を作ってしまった。

日本政府は、このような歴史に学ぶべきである。

<参考書籍>EU崩壊 秩序ある脱=世界化への道、ジャック・サピール藤原書店については、人間経済科学研究所HPをご参照ください。

大原 浩(おおはら ひろし)国際投資アナリスト/人間経済科学研究所・執行パートナー
1960年静岡県生まれ。同志社大学法学部を卒業後、上田短資(上田ハーロー)に入社。外国為替、インターバンク資金取引などを担当。フランス国営・クレディ・リヨネ銀行に移り、金融先物・デリバティブ・オプションなど先端金融商品を扱う。1994年、大原創研を設立して独立。2018年、財務省OBの有地浩氏と人間経済科学研究所を創設。著書に『韓国企業はなぜ中国から夜逃げするのか』(講談社)、『銀座の投資家が「日本は大丈夫」と断言する理由』(PHP研究所)など。