M&Aが合併(Merger)および買収(Acquisition)を指すことは一般によく知られているが「M&A&D」という言葉はあまり馴染みがないはずだ。この「D」というのは「事業分離(Divestiture)」の略だ。

企業の再編には事業を合体させたり、ぶら下げたりするだけでなく、事業を引き離したり、ときにはボツにしたりすることも含まれる。そのような企業再編の手法を総じてM&A&Dと呼ぶ。本稿では、事業分離とは具体的にどのような手法であるのか紹介する。

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(写真=PIXTA)

一部の事業を切り離したいときには?

居酒屋店を営んでいたAさんは2店舗目を出してから法人成りをして、合計3店舗まで店を増やした。その後、無借金経営で余剰資金のあったAさんは新規事業としてコインランドリーに事業投資を行い、同じく3店舗まで増やすに至った。

居酒屋店は常連客のおかげで安定経営を続け、コインランドリーも投資をなんとか回収できるほどには利益を確保した。しかし、コインランドリーの設備はすでに老朽化し、更新投資には多額の費用がかかりそうである。

Aさんは居酒屋店の3店舗は今後も経営を続け、コインランドリーの3店舗については他の人に譲りたいと考えている。この場合、コインランドリー事業の切り離しにはどのような手法が使えるのであろうか。

事業を切り離す「会社分割」という方法

事業を切り離す際の主要な方法としては「会社分割」と「事業譲渡」が挙げられる。このうち、会社分割とは、元の会社が事業の一部あるいは全部を他の会社に包括的に引き継がせる方法だ。包括的というのは丸ごと、つまり個々の資産や負債ではなく、ひとまとまりのビジネスとして承継することを指している。

会社分割には、すでに存在する会社に事業を引き継がせる「吸収分割」という方法と、新たに設立した会社に事業を引き継がせる「新設分割」という方法がある。

会社分割では事業を引き継いだ会社が対価として株式などを発行する。この株式を元の会社が受け取る「分社型分割」と元の会社の株主が受け取る「分割型分割」という方法に分けることもできる。つまり、「吸収」と「新設」、「分社型」と「分割型」という2×2の4タイプが存在することになる。

コインランドリー事業を会社分割したら

居酒屋事業とコインランドリー事業を営むAさんの会社(B社)がコインランドリー事業を新設会社(C社)に移転させる例を考えてみよう。新設会社(C社)が発行する株式をB社に交付した場合、居酒屋事業を営むB社の株式をAさんが保有し、コインランドリー事業を営むC社の株式をB社が保有するという形になる。

これは「新設」で、かつ「分社型」であるため「分社型新設分割」に該当する。この状態でC社の株式を第三者に売却すれば、B社で株式売却損益が発生することになる。

事業の切り離しには「事業譲渡」という方法も

これに対して「事業譲渡」という方法も存在する。事業譲渡とは、会社が営む特定の事業を事業譲渡契約にもとづいて他者に引き継がせる方法だ。

事業譲渡は、会社分割のように包括的に事業を承継させる組織法上の行為ではなく、たとえば、不動産などの固定資産を売買する契約にも似た取引法上の行為となる。

事業譲渡のメリットとしては、引き継がせる資産や負債が契約上明らかになっていることが挙げられる。これにより、決算書には載っていない簿外負債を引き継いでしまう心配もしなくて済む。

事業分離にもいろいろなパターンが

M&Aの一般的なイメージとしては、事業を買った会社が支配する側、事業を売った会社が支払される側と思われがちだ。しかし、事業分離の手法を用いた場合、事業を売った会社が、その対価として事業を買った会社の発行済株式の大半を取得するケースも考えられる。

この場合、事業を売った会社が事業を買った会社を支配する関係になるため、「逆取得」と呼ばれることがある。つまり、M&Aと事業分離は正反対のものではなく、自由に組み合せて活用すべきものなのだ。ただし、このような企業再編手法を活用する際には、税務上の影響も十分に考慮しなければならない。

たとえば、会社分割で移転させたコインランドリーの設備には消費税が課されないが、事業譲渡で移転させたコインランドリーの設備には消費税が課せられるといった違いもある。これらの細かい点については、税理士などのサポートも利用しながらプランニングした方が賢明といえるだろう。