猛スピードで日本を追い越した「爆速都市」

稟議,中国,白井良
(画像=The 21 online)

中国の経済成長を支えた最大の原動力は何でしょうか。鄧小平が始めた改革開放政策のダイナミズム。圧倒的な人口。広大な国土。そして、低コスト高品質の生産基地として世界中の企業が進出をしたこと。日本企業も欧・米企業も、この恩恵に浴してきました。

いまや、立場は逆転。“爆速都市”と言われる深センは、ハイテク、IT、金融と、カオスの中から、ありとあらゆる急成長企業を産み出しつつ、21世紀をけん引する世界的経済都市の一つになりつつあります。日本ではまだ一般にあまり名前を知られていない企業が、ドローンや電気自動車の世界シェアをわしづかみにしています。

改革開放が始まったばかりの80年代、日本は「ジャパンアズナンバーワン」と言われ、経済超大国としての地位を謳歌しました。残念ながら、その後の展開はご存知の通り。いまその勢いは見る影もありません。

では、何がこの差を生んだのでしょうか。中国のビジネスと日本のビジネスは、何が違うのでしょうか。日本は、どこに向かって、変わっていけばよいのでしょうか。

最大のポイントは、スピードです。中国人のビジネスは「即断即決」です。商談に臨むときは、決めることができる人物が、そこにいることが必須です。しかし、日本企業は幾重にもステップを踏みます。

しかも、日本人の踏むステップは、いつも内側に向かって踏むステップなのです。その代表的なものが、稟議、社内調整(根回し)、そして、忖度(そんたく)と言われる文化です。

ひたすら内向きな「稟議」というシステム

そもそも、稟議とは、「下々が、えらい方々のご意向をおうかがいする」という意味だそうです。小学館デジタル大辞泉によれば、「会社・官庁などで、会議を開催する手数を省くため、係の者が案を作成して関係者に回し、承認を求めること」とあります。役所では起案書と言うそうです。下の者が企画を考案して、関係するすべての人々のハンコをもらいながら上げていく。上層部の承認、決裁をとるという、お役所の仕事から発祥した日本独特のシステムなのです。しかも、これは社内の作業です。

これをやりながら、スピード最優先、即断即決の中国企業と向き合うことに、そもそも無理があります。いや、ハッキリ言って、不可能です。

稟議という仕組みは、スピードを遅くするばかりではありません。これは物事を決めて実践していくにあたり、能率の大幅な低下を招きます。さらに、ハンコの数だけ責任が分散するので、リーダーシップが阻害されます。何人もの関係者がハンコを押した企画だから、それだけ多くの人々が集団で責任をとってくれるのかというと、そうではありません。結局、責任をとるのは起案者本人ですよね。あるいは、一番偉い人が取るべきなのでしょうが、日本企業では一番上の人が、「よっしゃ!俺に任せろ」と責任をとってくれるという話は、なかなか聞いたことがありません。

「持ち帰り」をあざ笑う中国人たち

「いったん、社に持ち帰らせてください」「社内稟議を通すのに、しばらくお時間頂戴します」「いま、社内稟議中なのですが、上の者が一人出張中でして」。これ、中国人が一番いやがるやつです。そもそも中国人は、決められない人々だけで商談に行かせるということをしません。決められないなら、お引き取り下さいというのが、中国のビジネスです。これは、アメリカも同じだと思います。

まして、稟議に時間がかかるというのはお家の事情なので、先方様にとっては、知ったことではないですよね。

中国人が1時間かけて全力でプレゼンします。ビジネスの具体的な条件なども出して、「さあ、どうですか?」と決断を迫ります。日本企業からの担当者たちが、「では、持ち帰って検討させていただきます」。いきなり白けた空気が充満します。中国企業と商談する場面で、何度も見てきた光景です。日本企業を知る人々であれば、半ば苦笑して、「出たよ」という顔をします。日本企業の文化、やり方を知らない人々だと、本気で怒りだす場合も多々ありました。

日本人の肩書はもはや信用されない?

中国は肩書社会です。肩書イコール決定力です。案件を持って行くときに、ペーペーが来ると思われたら、アポすら取れず、その先、一歩も進みません。

したがって、日本企業側は肩書のある人を出します。それにもかかわらず、その場では何も決まらない。立派な肩書の日本人が、「ニーハオ、ぜひ、やりましょう! 持ち帰らせていただき、社内の調整をしてまいります! シェイシェイ」。社内事情を言い訳に、悪びれもしない日本の企業人に、中国人はティエンナ!(オーマイガー!という意味の中国語)と呆れているのです。

肩書を背負った日本人が来ても、やっぱりまわりくどい話に、「どうせ決まらないんでしょ」という顔をして、会議室の空気はよどみはじめます。だから、日本企業の肩書は、中国人から見れば、「肩書ほどの決定権はあるのか?」と疑いの目で見られていることを認識すべきです。

中国人の「見切り発車」も問題だが……

しかし、中国人の即決即断には落とし穴もあります。彼らは商談の場では「全部できる」と言って、決定を持ち帰ることをしないのですが、実際に進めていく過程で、問題が発生してくる場合があります。そういうとき、中国企業は途中でいきなりやめてしまうことが多々あるのです。

スピードは速いのですが、ダメかなと思ったら、ポイ捨てもオッケー。広大な国土を持つ大陸国家では、逃げるが勝ちです。それで、サッパリ連絡が取れなくなったと思ったら、しばらくして、ある日突然、新しい案件を振ってくるという見事な開き直りぶりに、度肝を抜かれたこともあります。

終わったことは気にしない。バンバン見切り発車をして、前進あるのみ。人に迷惑をかけながらでも、多産多死で進むのが中国式です。日本人は念には念を入れ、人に迷惑をかけないことを優先して、石橋を叩きながら渡るので、少産少死。事故は少ないけれど、そもそも生まれない場合が多いのです。社内ですら、です。これが、せっかちな中国人をイラつかせるのですね。

どちらがいいとも、言い切れません。しかし、「時は金なり」は世界共通です。優柔不断な人々が稟議を回しながら、社内調整、合意形成にじっくりと時間をかけすぎていては、スピード最優先で次々と見切り発車していく深?の超特急には乗れません。

「働き方改革」で本当に変えるべきこととは?

わが国では、ようやく「働き方改革」が叫ばれています。働き方改革の本質とは、長年慣れ親しんだ日本式の無駄、特に内向きの作業をなくすことでもあります。

一番無駄にしてはいけないものは時間です。人さまの時間を無駄にすることは、人さまの命を削っているのと同じです。時間の無駄は、人の無駄。時間の無駄は、命の無駄です。見切り発車上等、即決即断の中国人が、「やれやれ、またしても時間の無駄だったなあ」と白けた顔をしないように、日本人は腹をくくって、スピーディーな決断力とカオスを突き抜けるたくましさを鍛えていく必要があると思います。

私は、働き方改革を進める人財と仕事のマッチングプラットフォームによって、それぞれが国境を超え、文化を超え、日本人と中国人が同じスピードで仕事をして、より大きな価値を創造していける社会を目指していきたいと思います。忘れないで下さい。超特急を世界で最初に作ったのは、日本人なのですから!

白井 良(しらい・りょう)ソーシャルマン代表取締役
ソーシャルマン株式会社代表取締役。大手証券会社を2年で退社、25歳で中国の経済特区、深?で起業。中国人スタッフを雇い、中国企業を相手にビジネスをし、中国のビジネス文化に精通する。働き方改革のためのクロスボーダーお仕事プラットフォーム「ソーシャルマン」をローンチ。同時に、ミュージシャンとしてソーシャルマンバンドを結成。3月14日ホワイトデーにメジャーデビュー。慶応義塾大学中退、北京語言大学卒業。(『The 21 online』2018年03月08日 公開)

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