対米6月証券投資:ロシアに続きトルコも米国債に背を向ける

6月対米証券投資は、1,145億ドルの買い越しとなった。前月の692億ドル(699億ドルから下方修正)を含め、3ヵ月連続での資金流入となる。民間が1,424億ドル買い越し3ヵ月連続で流入した半面、海外中銀を含む公的機関が279億ドル売り越し、前月の流入から転じた。海外投資家の米国債投資は486億ドルの売り越し、前月の267億ドルの買い越しから流出に転じた。そのうち海外の民間が403億ドル売り越し、3ヵ月ぶりの流出を示す。海外の公的機関は83億ドル売り越し、3ヵ月連続で流出した。

期間中、トランプ政権は鉄鋼・アルミ関税の対象をEU、カナダ、メキシコに拡大させた。対中知財関税をめぐり、追加で2,000億ドル相当の中国製品に賦課するとも警告。また、6月に開催されたG7首脳会合でトランプ政権は首脳宣言の採択を拒否しただけでなく、あらためて自動車関税の導入を示唆する場面も。貿易戦争への緊張を高めた結果、3%に乗せるなど約7年ぶりの高水準を示した5月に反し、米10年債利回りは6月に低下し一時2.8%すら割り込んだ

国別での米国債保有高トップ5動向は、前月に続き以下の通り。ただし、順位は入れ替わり、ブラジルが3位に浮上した。租税回避地として知られ、ハイテク企業を抱えるアイルランドは、税制改革を受けたレパトリの影響か4位に転落している。

1位 中国 1兆1,787億ドル、44億ドルの売り越し、前月から流出に反転
2位 日本 1兆304億ドル(2011年10月以来の低水準)、184億ドルの売り越し、前月から流出に反転
3位 ブラジル 3,001億ドル(過去最高を更新)、9億ドルの買い越し、買い越し基調を継続に反転
4位 アイルランド 2,996億ドル(2017年5月以来の3,000億ドル割れ)、13億ドルの売り越し、前月から流出に反転
5位 英国 2,740億ドル、90億ドルの買い越し、2ヵ月連続で流入

トップ5の米国債保有高の推移。

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(作成:My Big Apple NY)

――中国は米国債を小幅に売り越しに転じたものの、13ヵ月連続で保有高トップの座を堅持しました。2位の日本は6月に売り越し額1位となった結果、保有高は再び2011年10月以来の低水準に。アイルランドに代わって3位に浮上したブラジルはレアル下支え介入を続けたものの、買い越し基調を維持していました。英国は2ヵ月連続で流入しましたが、中国経由のフローがあるのか、気掛かりです。

8月から米国人牧師をめぐりトランプ政権との対立激化でリラ急落に直面するトルコは、前月に指摘させて頂いたように、6月の対米証券投資で米財務省が公表する主要保有国リストから削除されました。ロシアに続き、2ヵ国目となります。さらに、5月に米国債保有高で300億ドルを超え、ロシアに代わって5月にランクインしたチリも大台割れへ戻したため、圏外へサヨナラ。その結果、リスト入りした国の数は31カ国にとどまり、5月の33ヵ国から減少しています。ちなみに、5月にいち早くリストから姿を消したロシアの米国債保有高は、6月に149億ドルと5月から横ばいでした。

トルコ、ロシア、チリ、フィリピンの米国債保有高動向。
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(作成:My Big Apple NY)

足元でドル高・エマージング国通貨安が鮮明となるなか、米財務省の主要国リスト入りの分水嶺となる300億ドルを割り込む国が増えてもおかしくありません。次に大台割れとなる可能性が高い国は、米国債保有高31位のフィリピン。フィリピン・ペソと言えば、新興国通貨別で年初来にてワースト11位の6.6%安(ワースト1位はアルゼンチン・ペソで37.7%安、2位はトルコ・リラで34.7%安、ロシア・ルーブルはワースト5位の13.7%安、全て8月16日時点)です。ドル売り・ペソ売り介入に踏み切れば、リスト圏外は時間の問題でしょう。

(カバー写真:guido.menato/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年8月16日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。