トランプ氏はプーチン氏に完敗?

トランプ米大統領とロシアのプーチン大統領の米ロ首脳会談が16日、フィンランドの首都ヘルシンキの大統領公邸で行われた。米ロ首脳会談は昨年7月の20カ国・地域(G20)首脳会議以来約1年ぶり。サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会の閉幕式に立ち会った後、プーチン氏はモスクワから予定より1時間ほど遅れてヘルシンキ入りした。一方、トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)、英国訪問などをこなした後、メラニア夫人を伴って一早くヘルシンキ入りしていた。

▲首脳会談後のトランプ大統領とプーチン大統領の記者会見(2018年7月16日、CNNの中継放送から)

▲首脳会談後のトランプ大統領とプーチン大統領の記者会見(2018年7月16日、CNNの中継放送から)

米ロ首脳会談では、両大統領が最初は通訳だけで2時間あまり会談した後、拡大会議、ワーキングランチなどが続き、現地時間5時過ぎになってようやく記者会見が開かれた。

当方はCNNとロシアのプロパガンダ放送、「ロシア・トゥディ」(RT)を視ながら首脳会談の行方を追った。CNNは米リベラルの代表的メディアで反トランプ色が非常に強い一方、RTはもちろんプーチン色で溢れ、米批判を付け加えながらもプーチン氏の偉大さをそれとはなしに報じる。両メディアの共通点はトランプ大統領を支持するメディアではないことだ。不動産王のトランプ氏は米大統領の歴史上、稀に見る“孤独な大統領”という印象を受けた。

米ロ首脳会談では、核軍縮(戦略核弾頭の配備上限を定めた新戦略兵器削減条約、新STARTの延長問題)、シリアの和平、イランの核問題、ロシアとドイツ間で計画中の新しいガスパイプライン建設(ノルドストリーム2)、北朝鮮の非核化など多方面の国際問題のほか、米ロ経済関係の強化などが話し合われた。また、2016年の米大統領選でのロシア側の介入疑惑問題について話し合われた。記者会見ではロシアの介入疑惑問題に質問が集中した。米大統領選でのロシア介入疑惑問題を捜査中のモラー特別検察官が13日、ロシア情報部員12人を「介入した」として起訴したばかりだ。当然の成り行きだ。

プーチン氏は「ロシアが米大統領選に関与することは考えられないし、今後もあり得ない」とこれまでの発言を繰り返した。それを受け、トランプ氏は「プーチン氏は関与をはっきりと否定した。その内容は説得力があった」という趣旨の内容を答えた。換言すれば、「米情報機関の情報よりロシア大統領の情報の方が正しい」といったニュアンスを聞く者に与えた。CNNが早速かみついた。「米大統領はロシアを自国の情報機関より信頼していることを国際社会に向かって発言した。トランプ氏のような米大統領は過去いなかった。米国の民主主義がロシアに敗北した歴史的な日だ」と強調し、トランプ氏を激しくこき下ろした。

ちなみに、ヘルシンキでのトランプ氏の発言に対しては米共和党からも批判の声が出ている。トランプ氏をこれまで支援してきた元下院議長のニュート・ギングリッチ氏は「トランプ氏の発言は大統領就任後の最大のミステークだ」とまで言っている。

トランプ氏の発言をその通り受け取れば、CNN記者たちの批判は間違いではないが、トランプ氏をメディア嫌いにしたのはCNNなどリベラルなメディアであったことを忘れてはならないだろう。何を言っても批判にさらされるトランプ氏の発言には一種の投げやり的な響きがあることは事実だ。

トランプ氏はプーチン氏に対して「強い競争者であるが、敵ではない」と述べたが、欧米メディアでは「トランプ氏は西側社会や西側同盟国を果たして信じているのだろうか」という疑問を呈する声が聞かれている。欧州はトランプ氏の欧州連合(EU)離れ、NATO離れに大きな懸念を感じている。

ロシアはウクライナのクリミア半島を併合し、シリア内戦で独裁者アサド政権を軍事支援、マレーシア航空機MH17撃墜事件(2014年7月17日、298人全員死亡)、英国では亡命した元ロシア情報員を化学兵器で暗殺を画策するなど、人権蹂躙を繰り返していた。その総責任者はプーチン大統領だ。そのプーチン氏の発言をトランプ氏が「米国の情報機関より信頼する」となれば、確かに大きな問題だ。

記者会見でプーチン氏からサッカーW杯のボールをもらうと、トランプ氏は「バロン(メラニア夫人との間の息子)にやれば喜ぶよ」と演壇から下に座っているメラニア夫人に向かってボールを投げた。このシーンは米ロ両国の関係改善を演出する狙いがあったのだろう。

米ロ間は多くの問題を抱えている。トランプ氏は「首脳会談は成功した。建設的な会談だった」といつものように称賛する一方、「今回はスタートだ。これから長いプロセスが控えている」と指摘することも忘れなかった。6月のシンガポールでの米朝首脳会談と同様、ヘルシンキの米ロ首脳会談は実質的な成果が乏しかった。トランプ外交の真剣度が試されるのはこれからだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年7月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。