人生100年時代と言われる現代、我々は定年後をどのように生きればよいのか?『終わった人』著者で、人気脚本家の内館氏と、東レの元役員でありながら、現在は作家として活躍する佐々木氏が語り合う。
舘ひろし、黒木瞳のW主演で映画が絶賛公開中。原作小説は「定年って生前葬だな」という衝撃的な一文から始まり、定年を迎えたエリートサラリーマンの悲哀を綴って、反響を呼んだ。現在、累計35万部突破。講談社から文庫版が発売中
仕事にしがみつかない
佐々木 『終わった人』を読んで驚いたのは主人公の壮介の人生と私の人生があまりに符合することでした。壮介も私も東北生まれで、東大卒。彼はメガバンクで、私は東レと職種は違いますが、働き盛りで左遷されたのも同じ。
あの時の惨めな気持ちは忘れられません。この本を読んで、よくもこんなにリアルに書けるなと感心しました。
内館 送っていただいた読者カードにも「女なのになぜ男の気持ちがわかるんだ」「自分がモデルかと思った」という内容がすごく多かったんです。
ただ、特定のモデルはいません。私は13年間、三菱重工に勤めて、社内報の編集をしていたのですが、そこで無意識に社員の言動を見ていたんでしょう。
例えば、壮介の妻、千草が「夫は人望もあるし、エリートで出来も良かったけど、望んだ出世ができなかった。会社員って他人に人生のカードを握られているのね」と言う場面があるのですが、あれも三菱重工時代に感じたものです。
佐々木 会社勤めをする以上はその理不尽を引き受ける覚悟がないと務まりませんよ(笑)。
内館 佐々木さんは同期中、トップで役員になられたけど、数年後に子会社に左遷されたと聞きました。ショックも大きかったのではありませんか。
佐々木 最低でも副社長になれると思っていたのですが……。子会社の社長になったとはいえ、30人の会社ですからね。
しかもまだ58歳のとき。競争社会から外れるという焦燥感はありました。でもショボンとするのはしゃくだし、家内が病気でしたから、これからは家庭のために時間を使おうと切り替えました。
内館 実際、その後は本を書き、講演をする人生が始まった。その意味では「終わった」ことが良かったと言えますね。
佐々木 東レの社長の名前は知らなくても私の名前を知っている人は少なくない。私は偶然、出版社に頼まれて本を書いたと言ってきましたが、それは嘘。
自分はこんなことが書けますよと自ら仕掛けた結果です。そんな大胆なことができたのも、腹をくくれたからでしょう。
内館 腹をくくれるかどうかは重要ですね。
佐々木 壮介は63歳になって、出向先の専務でサラリーマン人生を終えますが、本来は51歳で転籍になった時に出世競争以外の人生を見つけるべきでした。
なのに仕事にしがみついてしまった。定年後にやることもなく周囲に疎んじられる「終わった人」になったのもそのため。でも、そういう男性は日本中にいますよ。