表舞台から消えた「一発屋芸人」たちの「その後の人生」

髭男爵・山田ルイ53世にインタビュー

とんでもない売れ方だった

―「♪なんでだろう~」のテツandトモ、「残念、○○斬り!」の波田陽区……。

必殺ギャグで一世を風靡しながら、その後は勢いを失ってしまったかに見える「一発屋」と呼ばれる芸人たち。

この度「髭男爵」の山田ルイ53世が著した『一発屋芸人列伝』はブレイク前夜から現在まで、彼らの生きざまを、丹念に取材したノンフィクションです。一発屋というくくりでありながら、みんな個性豊かで読んでいてまったく飽きません。

いや、みんなホントに面白いんですよ。そもそもお笑い芸人って、ネタがかぶるのをすごく嫌う人種ですから、人生もオリジナリティにあふれている。だからこそ一発当てられるわけです。

それが、ピークをすぎると「一発屋」と名付けられて、よってたかって「オモロない」と言われてしまうのはすごく悲しい話です。

 

確かに、一発目のヒットはデカすぎたけれど、その後の彼らが「オモロない」というのは断じて違うぞ、ということが、この本で声を大にして言いたかったテーマのひとつです。

―ひとくくりに「一発当てた」といっても、いまの境遇にはずいぶん差がありますね。

一発のレベルにも差がありますからね。たとえば「フォー!」のレイザーラモンHGさんなんか、瞬間最大風速で言えば1じゃなくて2です。とんでもない売れかたでしたからね。あと、「そんなの関係ねぇ」の小島よしお君と、波田陽区も、みんな2です。

それに比べたら、ボクらの「ルネッサ~ンス」なんかきっちり0・8(笑)、1ではない。ちなみに、1の基準となるのは我らの先達、「ゲッツ!」のダンディ坂野さんですね。「右から左へ受け流す」でお馴染みのムーディ勝山君も1でしょう。

ただし、程度の差こそあれ、みんな今でもしっかり食えている。当てた一発がデカいがゆえに世間からの認知度も高いので、ぜんぜん生きていけるんです。この本に出てくるなかで食えてないのは、ハローケイスケさんだけじゃないかな(笑)。

―それぞれの芸人さんの話に山田さんの軽やかなツッコミが入り楽しく読み進められますが、一方で「芸」に対する工夫や努力、ヒット終焉後の苦悩など、内面もしっかりと描き出していて、人間ドラマとしての読み応えもたっぷりです。

「一発屋」というと、変な声とか、奇妙な格好とか、そんなのだけで売れていると思われがちですが、実はみんな、笑いの基本はきっちり押さえている人たちです。

唯一、コウメ太夫さんだけは、天性の勘だけで突き進んでいるようなところがありますけど(笑)。

当然ですが、一発で表舞台から消えたいと思っている人間は誰もいません。一発当てた後も、みんな知恵を絞って新しいギャグを考えていて、同じ芸人の目から見ても、けっこう面白いネタもあったりする。

でも、世間は、「あのネタ」を超えるものを求めてくるので、もはや普通に面白いくらいでは満足してもらえない。それで、どんなネタを考えても、「面白くないヤツ」と思われてしまう。これは、経験しないとわからない苦しみです。

―「一発当てる」ことと、その後にやってくる苦しみ。なかなか真似できないような経験から、それぞれが独特の人生観を築いているのも本書の興味深いところです。

これは、ムーディ勝山君の名言なんですけれど、「一発屋という電車に乗ってしまうと、もう降りられない」。

まさに一度出発したら終着駅に着くまでどこの駅にも止まらない。本人の意思にかかわらず、流れが次第に大きくなっていって、激流の中を転がりまわるしかないんです。それで、気がついたら勢いを失って、河口でプカプカ浮いている(笑)。

世間から「一発屋」とくくられている芸人たちが、ひとりの人間として何を考えているのかを記録として残せたのは、良かったと思っています。

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