何故…ミステリー作家が問うた「人が人を殺す」という問題

佐藤究「人生最高の10冊」

『ノーカントリー』の衝撃

大きな影響を受けた一冊としてまず挙げたいのが、中学生の時に読んだ、アーサー・C・クラークの『幼年期の終り』です。

僕は小学校に上がる前から佐藤さとるの『宇宙からきたかんづめ』などの童話をはじめ、SF的な作品は好きでよく読んでいましたが、この本は圧倒的にすごかった。

アーサー・C・クラーク(Photo by iStock)

宇宙への進出を目前にした人類の前に、宇宙船団が飛来。その船には「オーバーロード」なる知的存在がいて、地球を理想的な世界にすべく人類の管理を始めます。

この作品で描かれる人類の進化のヴィジョンは、現実の世界で予見されているものとはまったく異なります。作家一人の想像力でこれだけのものが書けるのか、と衝撃を受けました。

 

著者の他の作品にも手を伸ばしましたがこれがベスト。僕にとって、読み直す必要がないぐらい、頭の中に刻みこまれている小説です。

同じように、人類が進化とともにはらんできた業が書かれている作品といえるのが、1位のコーマック・マッカーシーの『ブラッド・メリディアン』。

先に著者の『血と暴力の国』を映画化した『ノーカントリー』を観て知り、手に取りました。

アメリカ現代文学の巨匠の代表作の一つですが、開拓時代の白人とインディアンが互いに行う凶暴な殺戮を描いています。

主人公の少年が所属するインディアン討伐隊には、2mを超える巨大な体でスキンヘッドのホールデン判事という怪人物がいます。物語の最重要人物ですが、ニーチェを思わせる哲学的な語りが印象深い。

「戦争が最高のやり手である人間を待っていた」という彼の言葉が、人類と戦争、暴力について考えさせます。詩的な文体でここまでのエンターテインメントが書けるのかと感じ入りました。

幼年期の終り』と『ブラッド・メリディアン』の2作から受けた影響は、今の僕の作風につながり、近著の『Ank: a mirroring ape』はそのレベルを目指し、書いた作品でもあります。

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