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わが国の自然利子率 ―DSGEモデルに基づく水準の計測と決定要因の識別―

2018年6月13日
岡崎陽介*1
須藤直*2

要旨

本稿では、わが国の自然利子率の水準とその決定要因について推計している。具体的には、先行研究において自然利子率の変動に寄与すると考えられている複数の要因について、それぞれの定量的な重要性を計測・比較することに主眼を置いた動学的確率的一般均衡モデルを構築し、1980年から2017年のデータを用いて推計を行った。分析結果は以下の3点である。第1に、わが国の自然利子率は趨勢的な低下傾向にあり、1980年代の約4%の水準から、直近5年間では約0.3%の水準まで低下した。こうした自然利子率の低下の多くは、中立技術の変化に起因するものであった。この間、投資特殊技術や人口動態、需要要因の変化も自然利子率の下押しに寄与していたものの、その定量的な大きさは限定的であった。第2に、将来に亘る自然利子率の予想値についても、趨勢的な低下傾向や、その変動に占める中立技術の重要性が観察された。この結果は、経済主体の間で、自然利子率の変化が一時的なものではなく、持続的なものとして受け止められてきたことを示している。第3に、自然利子率の変動に対する定量的な寄与という観点から決定要因を比較すると、金融仲介活動の機能度の寄与は中立技術に次いで2番目に大きく、とりわけ、1990年代に始まった銀行危機時においては、自然利子率を大きく押し下げていた。こうした結果は、自然利子率の動向を分析する際には、中立技術の推移のみならず、金融仲介活動の機能度についても注視する必要があるということを示唆している。

JEL 分類番号
E32、E43、E44、E52

キーワード
自然利子率、金融政策運営、DSGEモデル

本稿は、日本銀行ワーキングペーパーシリーズNo.18-E-6Natural Rate of Interest in Japan -- Measuring its size and identifying drivers based on a DSGE model --」の日本語訳版である。本稿の作成に当たり、青木浩介氏、一上響氏、黒住卓司氏、長野哲平氏、中島上智氏、西崎健司氏、斎藤雅士氏、渡部敏明氏、吉羽要直氏、上田晃三氏、大垣昌夫氏、大津敬介氏、新谷元嗣氏、廣瀬康生氏、および日本銀行でのセミナー参加者から有益なコメントを頂戴した。ただし、本稿のあり得べき誤りは筆者ら個人に属する。なお、本稿に示される内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行および企画局の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行企画局 E-mail : yousuke.okazaki@boj.or.jp
  2. *2日本銀行企画局 E-mail : nao.sudou@boj.or.jp

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
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