『みんなの学校』と呼ばれている、大阪の大空小学校。ここは特別支援学級をなくし、他の学校に行けないでいた子どもたちがのびのびと学べる「奇跡の学校」としてドキュメンタリーや映画が上映され、多くの賞を取っている。

実はこの学校では、道徳の教科化前から「全校道徳」という授業を2012年から実施している。普通学級の子どもたちも、重度の障害を持つ子どもたちもともに、道徳を通して目に見えて大きな学びを得ているというのだ。

そもそも道徳とは何を学ぶものなのか。「道徳教科化」についての疑義が謳われているいま、誰もが幸せになっているという「全校道徳」の内容を、大空小学校の初代校長をつとめた木村泰子さんが語る。

 

6年がリーダーになって考える

『みんなの学校』の映画の冒頭に、体育館で行われている全校道徳のシーンがあります。あれは2012年の撮影ですから、まさに始めたばかりのときでした。

全校道徳を行うきっかけは私の大失敗なんです。長くなるので割愛しますが、「大人が子どもに対して一方的な話をしても何も意味がない」ということを教職員全員が学んだ経験でした。そこで、「正解のないものを問い続ける道徳を、学校全体でやろう」ということになりました。

写真を見てください。これ、校長室にある、9年目の全校道徳のリポートすべてです。

校長室にある「全校道徳」のファイル。子どもたちの「考え」がびっしり書かれており、「あれ見せて」と子どもたちも頻繁に見に来る 写真提供/木村泰子

「『わかる』と『できる』はどう違う?」「どうすれば挨拶ができる自分になれるでしょうか?」「自分がされて嫌なこと 言われて嫌なこと どんなこと?」「今学校で困っていること」……子どもたちの考えは学習シートにびっしり書かれています。

子どもたちが入って来て「おれ、5年生のときにあのテーマで何書いてた?」「なあなあ、あのテーマの、見せて」とか頻繁にやってきます。

テーマはいろいろありますが、これは全校道徳を担当すると立候補した私ともう一人の教員と二人で「今日の全校道徳のテーマ」を決めていたものです。

各学年が一人ずつ入るくらいのチームを、意図的なグループではなくて偶発的に作っています。学期ではだいたい同じグループです。講堂に40グループくらいできるでしょうか。

でも、1年生は迷子になったりするんですよね。そんなとき時折ある先生が「こっちよ!」など言おうとするので、手を出さないように伝えます。そのまま見ていると、6年生のリーダーの誰かがが「大丈夫?」「わかる?」と迷子になっている子に話しかける。

「どのグループかわからない? ならこっち入り」なんて、グループが変わることもある。その偶発でいいんです。先生が邪魔をしないことで、生徒たちは自分で考えて行動するんです。