一流が実践する「戦略的休息」とは

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(画像=The 21 online)

どんな局面でも焦ることなく、疲れた顔も見せず、しっかりと成果をあげる。一流の共通点だ。しかし、彼らは決して超人などではなく、「戦略的に休息を取る術」を知っているだけだと話すのは、医師でありMBAホルダーにして経営者の裴英洙氏。裴氏によると、一流の休息術とは「8時間睡眠」や「リフレッシュにはスポーツを」など、ちまたでよく聞くものとは限らず、むしろオリジナルなものであることが多いという。(取材・構成=林 加愛、写真=まるやゆういち)

休息しないと「魅力」が下がる!?

休息とは文字どおり「息をするために休む」こと、すなわち「ひと呼吸入れる」ことです。オーケストラでは、1拍の間が大きな効果を持ちます。これを人間の行動様式に置き換えると「ひと呼吸置かない生活」とは「リズムのない生活」ということになります。それは、同じテンポとボリュームで、休みなく鳴り続ける音楽のようなもの。

多忙なビジネスマンの皆さん、日々の生活が、この音楽のようになっていませんか。休みなく、常に一本調子の疾走状態……。

こうした生活を送ることの弊害は、単に健康が損なわれるだけではありません。緩急のない音楽がつまらないように、あなたの仕事や人生そのものが魅力を欠いていくこと、これこそが甚大な損失なのです。

一流のビジネスマンが休息によって手に入れているのは、まさにこの部分。休息を挟みリズムを作ることで、仕事や自身の生き方をより魅力的なものにしているのです。休息時、彼らがしていることは2つ。1つは、これまでの行動の振り返り。もう1つは、それを踏まえた今後の行動のイメージ。彼らにとっての休息とは、行動を俯瞰的に見直す「戦略タイム」でもあるのです。結果、休息後にはより行き届いたマネジメントができ、部下の快適度も増します。

また、一流の人は「就業中の休息」が上手です。自身がひと息つくと同時に、くつろいだ雰囲気を見せることで部下が話しかけやすくなる、そんな工夫もお手のもの。多忙さをアピールして「話しかけるなオーラ」を放つ二流・三流とは対照的です。

一方で「休みを入れてリズムを作る」というワザは、権限のある人ほど実践しやすいもの。しかし工夫次第で、上司の指示を聞く側の人にも決して不可能ではありません。まず取り組むべきは、仕事の時短です。仕事に優先順位をつけ、配分し、就業時間を短縮することが第一歩。

次にすべきは「疲れに応じた休息法」を心得ることです。疲れには、肉体の酷使で起こる「身体的疲労」、人間関係ストレスなどで起こる「精神的疲労」、長時間のパソコン作業などで起こる「神経的疲労」の3種類があります。 これに対し、対処法も同じく3種類あります。「睡眠・栄養・運動」です。睡眠はどの疲労にも有効で、栄養は身体的疲労により効果的ですし、運動は精神的疲労や停滞感のあるときに行なうと効果的です。 自分の疲れの原因をきちんと把握し、「身体が疲れているのにスポーツで気分転換」「神経が疲れているのに山ほど栄養を摂る」といった、的外れな対処をしないように気をつけましょう。

土台を整えたら、仕上げに「自分が『本当に効く』と思える、オリジナルの休息法」を見つけましょう。効果的な休息法は「人真似」では手に入りません。体質や仕事環境が1人ひとり違うように、効く休息も千差万別。だからこそ一流は業務内容に応じて、自分の感覚に素直に従い、オリジナルの休息法を編み出しているものです。

とはいえ、人が実践している方法を知ることは自分の休息法を探すうえで参考になるはず。下のコラムでは、多くの一流がやっている「流行に流されない、本当に血肉となる休息術」を紹介します。

「全体最適のリズム」を作れる人になろう

以上の「休息術のスキルアップ」は、あなたがより高いパフォーマンスを発揮し、魅力的な人間性を備えるのに一役買います。その結果として役職やポジションが上がれば、より多くの自由が手に入り、さらに自分の裁量に合わせた休息が取れるという好循環が生まれます。仕事に飲まれいつも時間に追われている人には、これと逆のことが起きているわけです。

戦略的な休息を取れるようになった先には「指揮者」としてチーム全体のリズムを自ら作り出す世界があるわけですが、そこでもう一つ、一流になれるかどうかの分かれめがあります。チームの指揮者となったとき、「自分だけが心地良い音楽」を一方的に流すのは二流。自分と部下全員が快適でいられるリズムを組めるのが一流です。

円滑な組織運営がリーダーの仕事。部下の心身の健康まで考えることは不可欠です。皆が居心地のいいリズムを作るには、会社の理念や、あなた自身の「こうありたい」「こんな人生を送りたい」という思想や人間性も、深くかかわってきます。

今は「指揮者」ではない人も、この視点は今のうちから持っておきましょう。あなたの休息の時間を、自分と周囲のこれからに、どう生かすか。その思いの積み重ねが、あなた自身の人生に厚みを加えていくのです。

◆手帳で自分の睡眠時間を管理

一流の人が常にエネルギッシュなのは、仕事の効率を高めて上手に休息を取っているから。さらに彼らは「疲れたら休む」のではなく「疲れる前に休む」。一度疲れ切ると、本来は楽しめる趣味すらも負担になってしまうからだ。そのような事態を防ぐためには、睡眠が不可欠。ただ、何時間眠るべきかには個人差がある。そこで、何時間寝たら翌日どんな調子だったか、簡単に手帳にメモする習慣をつけ、自分のベストな睡眠時間を知ろう。

◆「自分と趣味の違う人」と関わる

休息法を選ぶときは、流行に乗るだけの「見栄え第一主義」に陥らず、本当に自分がやりたいことをやろう。しっかりリラックスするためには、世の中の評価より自分の五感を軸に考えるのが正解だ。ただ、自分の好みばかりに傾くと「発見」のチャンスが減る。そこで、10回に1回は、自分が未経験の趣味を持つ友人を頼り「今度、僕も登山に連れて行って」などと頼んでみよう。一流が好奇心旺盛なのは、未知の世界の面白さを知っているからなのだ。

◆「仕事の外」に出る時間を作る

休息は、日常から離れ「思考する」時間でもある。そこで、時にはあえて仕事と別次元の体験を。「ビジネス書は読まないが小説は読む」というエリートが多いのは、小説、映画、旅行などが仕事とかけ離れていて、かつ「人としての在り方」を考えさせる作用があるからだ。とくに有益なのは古今東西の名作小説。裴氏の愛読書は三島由紀夫の『金閣寺』だというが、不道徳や逸脱を描いた作品でも、そこから道徳や倫理の何たるかを考えることで、今後の行動に変化が起きるという。

◆「形容詞」で考えてみる

自分の仕事と休息のリズムが、ともに働く人全員のリズムと調和するよう図るのが一流の働き方。極めて高いスキルが必要だが、最大の秘訣は、「動詞」ではなく「形容詞」で仕事を捉えること――。つまり、こう「する」ではなく、こう「ある」よう意識することだ。「売上げ1億を達成する」「利益率を〇%にする」など、業務上の目的の多くは動詞型だが、それとは別に、「皆が笑顔でいる」といった「状態」に落とし込むと、きちんと休息の取れるリズムを構成しやすくなる。

裴 英洙(はい・えいしゅ)ハイズ〔株〕代表取締役社長/医師/医学博士/MBA
1972年、奈良県生まれ。金沢大学医学部卒業後、金沢大学第一外科に勤務。医師として働きながら、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應ビジネス・スクール)を首席修了。ビジネス・スクール在学中に、医療機関再生コンサルティング会社を設立。現在も医師として臨床業務をしつつ、医療機関経営に関するアドバイスを行なう。著書に、『一流の睡眠「MBA×コンサルタント」の医師が教える快眠戦略』(ダイヤモンド社)など。(『The 21 online』2017年12月号より)

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