ビジネスで「即レス」を心がけてはいけない理由(滝川 徹)

Thicha Satapitanon/iStock

以前 LINEヤフー(株)代表取締役会長の川邊健太郎氏がX(エックス)でチャット・メールへの「即レス」について言及し話題になっていた(2023/10/20)。『組織やネットワークにおいて遅レスは罪であり、即レスは奨励されるべき人の基本行動』と説いたツイートのインプレッションは100万近くに及んだ。

即レスが他者を思いやる良い行為であることに異論はない。しかし一般のビジネスパーソンが心がけると、仕事の生産性が低下し長時間労働に陥るのでやめたほうがいい。そう語るのは時短コンサルタントの滝川徹氏。

今回は、滝川氏の著書『細分化して片付ける30分仕事術(パンローリング) 』より、日々のチャット・メールへの対処法を、再構成してお届けします。

頻繁なチャット・メールチェックは自ら割りこみタスクを増やす行為

割りこみタスク(=他者からの中断)を減らすために心がけていること。それはメールやチャットと距離を置くことだ。

私はメールチェックなどはまめにはしない。もちろん社内外問わず連絡はくる。それらは便利な連絡手段だが、問題がある。それは常時チェックすることで、自ら割りこみタスクを作り出してしまう点だ。昔の私を例にこのことを説明しよう。

即レスこそデキるビジネスマンの証! そう考えていた昔の私は、常にメールなどをチェックする習慣があった。

集中して目の前のタスクに取り組んでいるときも、メールを受信すればすぐに確認。その場で返信することもあったし、そのメールに依頼事項が書いてあれば目の前のタスクを中断してその依頼事項に取りかかったりした。ここで何が起きているか、君は気づいただろうか。そう、私はメールを見にいくことでメール受信の度に割りこみタスクを自ら作りだしていたのだ。

言うまでもなくメールやチャット自体は本来割りこみタスクではない。なぜならメールやチャットをいつ見るかは、受け手に委ねられているからだ。たとえば1時間に1回メールやチャットをチェックすることをタスクリストに組みこんで予定していれば。それは割りこみタスクにはならない。単にルーティンタスクをこなしているだけだからだ。

一方メールやチャットを受信する度に自らそれらを確認していれば、それは結果的に割りこみタスクとなってしまう。割りこみタスクを減らしたいなら、メールやチャットを常にチェックしない仕組みを作ることだ。つまり確認する時間や頻度を事前に決めてそのペースを守ればいい。

チャット・メールチェックは1日2回で十分

では具体的にどれくらいの頻度で確認すればよいのか。私が提案したいのは1日に2回、たとえば10時と16時にチェックするようにすることだ。念のために言っておくが、これは机上の空論ではない。私や私のセミナーの受講生の多くがこのルールを守ることで大きなメリットを感じている。なぜ1日2回のチェックで十分なのか。説明しよう。

まず大前提として、先程も書いたが実は相手はそんなに急いでいない。メールやチャットに即レスしないからといって、何か問題が起こるだろうか? もし重要で緊急な案件なら、相手はあなたに直接連絡を取ろうとするはずだ。クライアントなら電話で、同僚ならデスクまで用件を言いに来るだろう。メールやチャットで相手が連絡をしてきているということは、その時点で少なくとも急ぎの案件ではない。

もし万が一、相手が緊急な用件をメールで送ってきていたとしてもこちらから返事がなければ別の手段で直接連絡をよこすはずだ。問題がおきたときに「メールを送ったのですが、相手から反応がなくて……」なんて言いわけはビジネスでは通用しないし、君が逆の立場だったらそうするはずだ。

誤解しないでほしいが、私は即レスや相手の連絡に早く反応することを軽んじているわけではない。即レスをしたり、相手に早く反応したほうがいいのは間違いない。しかしそれをすることで、自ら割りこみタスクを増やして自分の仕事が回らなくなるのでは意味がないと言っているのだ。

メールやチャットと距離を置くと、かえって返信が早くなる理由

つまるところこれは「何を優先するか」の選択の問題だ。メールやチャットを常にチェックして即レスを心がけていれば、その点は評価されるかもしれない。しかし、割りこみタスクの時間を差し引いた業務時間=「本当の持ち時間」が削られることで、仕事の生産性は低下し、能率が悪化し、その日に予定していた仕事が終わらず、長時間労働に陥る。結果的に「あの人は仕事が回っていない」「仕事が遅い」と評価されたら本末転倒ではないだろうか。

一方で、メールなどのチェック頻度を落とすことでタスクへの集中度が増し、生産性が上がれば仕事の効率は劇的に高まり余裕をもって日々仕事をこなせるようになる。どちらを選びますか? ということだ。

後者を選ぶ君にいいニュースがある。現在の私はメールやチャットに対する返信は、通常の人よりずっと早い。なぜか。それはメールやチャットと距離を置くようになり、仕事が回るようになったからだ。仕事にも心にも余裕があるので結果的にそれらの連絡にもすぐに反応できるようになるという正のスパイラルが生じた。

メールやチャットと距離を置こう。「1日2回」は言うまでもなく絶対的な基準ではない。私は「1日2回」で十分と考えているが、何回が最適かはその人の仕事の性質や自身の環境によっても変わってくるだろう。君には君自身の正解を見つけてほしい。

大切なのはメールやチャットと距離を置くということを意識づけること。自分のできる範囲からでかまわない。チェックの頻度を徐々に減らしていけばよい。メールやチャットを受信すると常にポップアップで通知されるようにしているなら、まずはそれを解除してみるのもいいだろう。

集中しているときに目の端に通知が来ると、思いのほか気になってしまうからだ。そうしてチェックしにいく回数を1時間に1回、2時間に1回と段階的に試してみてはどうだろうか。

目的は「メールやチャットを常にチェックしなくても仕事は問題なく回っていく」ということを体感することだ。即レスを心掛けてきた分、不安になる気持ちはわかる。しかし実践してみればわかるはずだ―仕事は問題なく回っていく。このことを体感するには勇気を出して実際にチェックする頻度を落とすという「行動」をしてみなければならない。

チャットに急ぎの要件が入ることが多い場合はどうしたらいいのか?

まず前提として、チャットに急ぎの要件を送ってくるのは相手の勝手な事情である。このことをここであらためて認識しよう。相手が至急の要件を送ってきたからといって、ただちにそれを確認してレス(返信)する義務が君に生じるわけではない。

もし本当に急を要する重要な案件なら、相手は君に直接連絡を取ってくるはずだ。ただ、君が同僚との関係性を大切にしていることもわかるし、気になってしまうのもわかる。そこで現実的な対応策をいくつかお伝えしよう。

【ステップ1】あくまでチャットの確認とレスを分ける

チャットを確認しないと不安なら、それはそれでかまわない。ただし至急の要件以外はその場でレスをしないこと。チェックだけして、元の作業に戻ろう。そうすることで割りこみタスクに費やす時間を最小限に抑えることができる。実際に試してみれば、これだけでも大きな効果がある。このことを実感できるはずだ。

【ステップ2】チャットの通知をオフにして、1時間に1回チェックする

どうしても怖いなら30分毎でもよい。ここでのポイントは「チャットは常にチェックしてなくても大丈夫」という経験を積み重ねていくことだ。まずは30分からはじめて、しばらく続けてみて問題なさそうなら1時間間隔にしてみる。

このように、少しずつチャットと距離を取ることを心がけていこう。こうした体験を積み重ねていけば、遠くない未来に私と同じ感覚でチャットに接することができるようになるはずだ。

滝川 徹(タスク管理の専門家)
1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。 

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2024年4月25日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。