世界第2の惨状:韓国のコロナウイルス拡散の背景

韓国の新型コロナウイルスの感染者が1146人に増え、死亡者数は12人にのぼった(26日現在)。患者数では、中国に次いで世界で二番目に多い惨状となっている。

新型コロナウイルスを巡っては、武漢ウイルス研究所(正式には中国科学院武漢病毒研究所)の開発した「ウイルス兵器」の可能性まで取りざたされたが、中国側が情報統制をしているため、政治的な憶測もつきまとう。習近平派(太子堂)と江沢民派(上海派)の権力闘争説をはじめ、陰謀説も含めて様々な推測が出回っている。その背景には、武漢で昨年夏、ゴミ焼却施設をめぐるデモが発生。同時期に香港デモも起きて中国当局が警戒を強めていた。

さきごろの陰謀論の中には、習近平政権がそうした反体制運動の力を削ぎ、武漢と香港のデモが連帯するのを防ぐため、あるいは政敵の江沢民派が習政権にダメージを与えるためにコロナウイルスを拡散させたといった話も飛び出た。

大邱を視察した文大統領(大統領府Facebook)

さて、韓国でも文在寅政権がコロナウィルスの“政治利用”をしたかのような憶測が飛び交った。伝統的な保守右派地域であり、在韓米軍基地が散在する大邱市地域で感染が拡大したからだった。

大邱市で開催された新興宗教(新天地)の集会ではコロナウィルスが拡散し、日本でも注目を集めている。しかし、文政権は一連の感染拡大の責任を回避しているようだ。大韓医師協会は最初から数回にわたって中国人入国を止めるよう韓国政府に呼び掛けたが、文政権はこれを軽視した。

文政権は経済政策に失敗し、世論調査で不支持が上回るようになってきた。4月15日の国会総選挙で野党の保守右派に大敗する恐れも出ている。だから政治的に有利な局面を作ろうと、習近平の韓国訪問を呼び掛けるために中国人入国を止めなかったのではないか。結果として、コロナウイルス拡散につながったとする見方もある。

さらに、韓国のマスクが品切れの現状も文政権が中国に無料で大量提供したのが原因のひとつと目され、国民の反感を買っている。韓国には新学期を迎え、中国人留学生が2万人以上入国している中、中国人に対する警戒心が高まっている。(ちなみに北朝鮮は中朝国境を完全封鎖して感染者が発生してないとされている)。

ここにきて問題なのは文政権は中国人の入国を止めないが、中国が逆に韓国人の入国を止め、入国者を隔離する厳しい措置を取っていることだ。このような中国の仕打ちに韓国では反中世論がエスカレートし、怒りの矛先が文政権に向かっている。

4月15日の国会総選挙を控えて大きな失策を繰り返す文在寅政権は、まさに存亡の危機を迎えている。

(拓殖大学主任研究員、元 韓国国防省専門委員、分析官)