新型肺炎患者の感染ルートを割出せ

アルプスの小国オーストリア西部チロル州で25日、2人のイタリア人が新型コロナウイルス(covid-19)に感染していることが確認された。同国では初のケース。オーストリアの隣国イタリアで新型肺炎感染者が急増していることもあって、オーストリア側も警戒してきた。特に、イタリアと国境を接するチロル州では感染者発生を想定して受け入れ態勢を検討していた矢先だった。新型コロナウイルスの感染力が如何に凄いかを改めて証明した。

新型肺炎患者が出たことを受け、オーストリア内務省は緊急会議を開催(2020年2月25日、オーストリア内務省公式サイトから)

2人は24歳の同年齢のカップルで、イタリアで新型肺炎発生の拠点となってい同国北部ロンバルディア州出身者。女性はインスブルック市内のホテルで働いている。2人が体調が良くないうえ、熱が出たことから、市内の緊急連絡所に電話。検査したところ新型肺炎と分かり、即隔離された。インスブルック大学病院の話によると、25日午後、2人の体調は回復し、熱も下がったが、隔離を続けるという。

「オーストリアで新型肺炎感染者が出た」というニュースは同国のトップ記事で報道された。国民は「肺炎ウイルスがやって来たか」といった感じで受け取っている。サプライズではなく、時間の問題だったからだ。オーストリア政府はイタリア側とは肺炎対策で連携を強化する一方、両国の国境ブレンナー(Brenner)での監視強化を始めている。

オーストリアでは先月26日、新型肺炎の最初の疑い患者が見つかったが、検査の結果、陰性。2月初旬には中国湖北省武漢市にいる同国国民を帰国させるなど、対応に乗り出してきた。

イタリアで25日現在、283人の感染者、11人が死亡したことから、オーストリア政府は緊急対策会議を開き、内務省、厚生省など関係省の連携を強化し、同国全土で59カ所の病院で感染者受け入れ隔離態勢を敷いている。

25日夜、オーストリア国営放送は新型肺炎に関する特別番組を放映した。ウイルス専門家、欧州消費者協会代表、労働法専門家、そして内科医が新型肺炎対策に関連する情報を国民に伝えていた。非常に啓蒙的な番組だった。

新型ウイルスが従来のインフルエンザとどこが違うか、イースター(復活祭)休暇でイタリア旅行を計画していたが、肺炎の拡大で旅行をキャンセルした場合はどうなるか、肺炎感染者が出た場合、感染が怖いので会社を休みたいが、それは可能かなどを各専門家に聞いていた。

以下、日本の読者にも役立つ情報を2、3紹介する。

A:肺炎の感染を防止するためにマスクを購入する人が増え、薬局店からマスクが売れ切れたというニュースが流れているが、ウイルス専門家は「市場で売られているマスクは感染者がそのウイルスを外にばらまかないという意味で少しは役立つが、ウイルス感染防止にはならない。ちなみに、新型肺炎の感染としては、①接触感染、②飛翔感染、③無接触感染(エアロゾル感染)が考えられる。

B:体調を崩し、新型コロナウイルスの疑いが出た場合、タクシーや公共交通機関で病院には行ってはならない。感染していた場合、ウイルスがその途上で拡大する危険性が出てくるからだ。オーストリアの場合、「1450」の緊急健康専門家ホットラインに電話し、様態を報告。新型肺炎の感染の疑いがあるとなれば、救急車が自宅にきて検査し、感染が確認されれば、即隔離する体制を敷いている。

感染者が見つかった場合、医者はどこから感染したかを、患者にインタビューし、患者が接触した場所、人の割り出しに乗り出す。名探偵シャーロック・ホームズのような仕事が待っているわけだ。

参考までに、中国共産党政権は2014年、「社会信用システム構築の計画概要」を発表し、国民の個人情報をデーターベース化し、国民の信用ランクを作成、共産党政権を批判した言動の有無、反体制デモの参加有無、違法行為の有無などをスコア化し、国民を「危険分子」「反体制分子」などに分類していることは良く知られている。

中国共産党政権は「社会信用スコア」と顔認証システム、全土に張り巡らした数億台の監視カメラを連携させ、そこから集まるビッグデータを駆使して、新型肺炎の感染ルートの割り出しに利用している(「中国の監視社会と『社会信用スコア』」2019年3月10日参考)。中国では、シャーロック・ホームズの役割を共産党が演じているわけだ。この分野では中国は世界で最も先端を走っている。

注:オーストリア通信(APA)が26日報じたところによると、新型肺炎が見つかった24歳のイタリア人女性が勤務していたホテルの関係者など62人が検査され、そのうち9人が感染の疑いが排除できないとして隔離されたという。また、ケルンテン州で同日午前、イタリアからきた旅行者(女性、56歳)が死亡した件で、同州では新型肺炎との関連を調べている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年2月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。